双系システム(日本の伝統的な家族形態)の成立過程を考察する(転)

前回のブログ:双系システム(日本の伝統的な家族形態)の成立過程を考察する(承)

 縄文人が海洋民の文化を受け継いで母系制に移行した場合、集落には採集生活の働き手である娘が構成員として残り、男は年頃になれば集落を離れ、婚姻の形も男が女の寝所に通う妻問婚になると思われます。記紀神話でも八千矛神(オオナムジ・大国主)が越(コシ)の国のヌナカワヒメを妻問し、古代の天皇もガンガン妻問しています。上田篤氏は『縄文人に学ぶ』の中で、高群逸枝氏(母系制の研究者)の論考を引用して古代は妻問婚、室町中期までは婿入り婚、それ以降は嫁入り婚が一般的だったとする説に同意しています。集落を追われた男たちは熊・猪・鯨などの狩猟や漁労に興じていたと思われ、記紀でスサノオがヤマタノオロチを退治した件もコレに該当するでしょう。さらに山野を彷徨った男たちの文化は後にはマタギに受け継がれ、山伏や修験道といった山岳信仰にも繋がると思われます。

 さて、一般的な日本人の住居では靴を脱いで上がりますが、これは縄文人の慣習に由来があるそうです。縄文遺跡の多くには環状列石や木柱列があり、そこは墓所にして太陽観測所だったとされます。山海の恵みを得る採集生活では季節(旬)を正しく知るために太陽観測が必須となり、従って太陽は自然の恵みの象徴として信仰の対象となり得ます。ゆえに記紀神話の主神は太陽の女神アマテラスです。また、茅葺の家を暖めたり乾かしたり土器による調理や燻製で食材の保存性を高めたり出来る火も「太陽の子」として神聖視されたと上田氏は言います。つまり竪穴式住居は火の神を祭る神殿だから靴を脱いで入る習慣が出来たそうです。ちなみに天皇が即位して最初の新嘗祭(大嘗祭)では、米や粟の他に山海の特産物も神前に供えられ天皇も共に食します。

 ところで、日本の稲作は縄文中期から始まっており、それは中国江南地方から来たアマ族(前回を参照)が持ち込んだと思われます。採集生活では働き手が女だったために女権が全盛でしたが、弥生期から本格化する農作業では灌漑土木を始めとする力仕事が必須であるために男権が復興し、やがて母系の血族集落は双系の共同体集落(ムラ)に移行します。

 ようやくEトッド氏の言う直系(男系)システム成立前に日本に存在した「双系システム」が萌芽しました。

(結)に続く。

(メールより) 文責:京都のS

10 件のコメント

    京都のS

    2022年5月31日

     「古代女性史から解き明かす皇位継承のジェンダーバイアス」(義江明子:https://news.yahoo.co.jp/articles/e52149cd7081d3de76cd2c02bcc0068229230034?page=1)には、本稿で紹介した高群逸枝の研究への言及があります。

    基礎医学研究者

    2022年3月9日

    ほ~(≧▽≦)、それは期待大です( ̄▽ ̄)

    鬼殺隊京都支部のS

    2022年3月9日

    …します。本日の正午過ぎをお待ちください。

    鬼殺隊京都支部のS

    2022年3月9日

     基礎医様、(結)では保守言論人としての施氏や藤井氏が最も言われたくない言葉で、日輪刀で斬るように論駁

    基礎医学研究者

    2022年3月9日

    今回も楽しく読ませていただきました。自分はシンプルに、日本人の靴を脱ぐ習慣が縄文人の習慣に由来する、という部分に「ほお~」と妙に説得力を感じました。そして、それが太陽神(日本の場合は女神)の信仰につながっていくというのも、ロマンを感じますね。「結」に期待します。

    京都のS

    2022年3月9日

     そうそう、妻問の文化は夜這いにも受け継がれたはずです。その際にも主導権は女性の側にあったはずです。記紀神話のイザナミもヤガミヒメもスセリヒメもトヨタマヒメも、女性の側から気に入った場合でないと和合できていないからです。

    京都のS

    2022年3月9日

     ダダ様、ありがとうございます。縄文と言えば岡本太郎ですね。最近の人なら井浦新を思い浮かべる人も居そうですが(笑)。
     火焔型土器は深海のイメージですか。記紀神話には海と関わる話が多いですね。因幡の白兎に傷を負わせるワニザメとか、海神(ワダツミ)の娘たち(豊玉姫・玉依姫)もサメでした。縄文人がハイブリッドでも、やはりコシ族(南方海洋民)が文化的な先祖ですね。

    ダダ

    2022年3月8日

    靴を脱ぐ習慣が縄文時代に由来するなんて・・!
    太陽信仰、火の神、神殿(竪穴式住居)にナルホド~です(^^♪
    そして双系社会の萌芽。自然な流れですね。

    土偶は女性がモデルになっていると分かるものありますが、植物説もあって面白いです。

    それと全く関係ないのですが、縄文と言えば岡本太郎。
    あの火焔土器に、深海のイメージを持っていたそうです。
    「私の血の中に力がふき起るのを覚えた。純粋に透った神経の鋭さ。叫びたくなる凄み」と言いながら深海。。謎だわー(;^_^A

    京都のS

    2022年3月8日

     今回も未収録分を少し補足します。母系の血族集落では、女系図を辿れば集落の元祖である一人の女性に行き着きます。彼女を「元母」と名付けるなら、元母は集落ではカミであり、その元母を象ったものが土偶だと上田氏は言います。母系システムが双系システムに移行するには、稲作を持ち込むアマ族と多少の武力を備えた天孫族が来訪し、男手の要る農業が一般化する時代にならないと無理でしょう。

    鬼殺隊京都支部のS

    2022年3月8日

     竪穴式住居の中央にある囲炉裏が火の神の祭壇です。仁徳天皇は民の竈から炊事の煙が上らないことを心配して減税しました。太陽神の子孫(天皇)は火の神(竈)と民との関係に心を砕いていたということでしょうか。
     ところで、太陽と火の関係が根本と派生物の関係という件は、炎の呼吸(炎柱が使い手)が日のカミ神楽(竈門炭次郎の父が息子に伝承していた)の派生だと知ってヤサグレてしまった元炎柱の煉獄槇寿郎(杏寿郎の父)のエピソードにも通じています。

コメントはこちらから

全ての項目に入力が必須となります。メールアドレスはサイト上には表示されません。

内容に問題なければ、下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。