齟齬が生じたなら万難を排して改めよ!

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 「英雄たちの選択」というNHKの歴史番組が「渋川春海」を取り上げていました。1600年代の終わり頃(≒元禄期)、唐で編集された宣命暦が約800年前から日本でも流用されていましたが、日蝕・月蝕(不吉ゆえ貴人が予定を変更した)の予報が何度も外れるという齟齬が生じていました。幕府お抱えの囲碁棋士だった安井算哲(後の渋川春海)は本職の傍ら趣味の天体観測を行い、また儒者の山崎闇斎や陰陽頭の土御門泰福から神道と陰陽道を学び、和算家や暦算家から天文暦学を学び、元の時代に使われた「授時暦」を研究していました。

 噂を聞いた保科正之(会津藩主)と水戸光圀(水戸藩主)から改暦事業に当たるように命じられた春海は、宣命暦VS授時暦で日蝕・月蝕当て勝負を挑みましたが、結果は5勝1敗となり、5勝したにも拘らず採用は見送られました。それでも春海は諦めず、発禁の洋書も参照しながら天体観測と研究を続け、やがて公転軌道が楕円ゆえに夏至や冬至にズレが生じ、また北京と京という経度のズレもあるという事実を突き止めました。これらのズレを補正して春海は「大和暦」を完成させ、それを幕府は認めましたが、朝廷は「大統暦」(※明で使われていた暦)に改めると発表しました。春海は大和暦の優秀性を説く口上書を朝廷に提出し、また盟友の土御門泰福が公家らを説得して根回しし、さらに「大和暦」ではなく元号(定めた天皇の事績となる)を冠した「貞享暦」と名を改めることで朝廷も採用を決めました。

 上記のエピソードから分かることは、古のルールを固守して齟齬が生じたなら万難を排して改めるべきだということです。つまり、皇位継承を男系男子に限るという現行法に固執する輩渋川春海の爪の垢を煎じて飲めということです。

 改暦が成って以後「天文方」という役職が幕府に設置され、春海は初代に任じられました。時は下って1800年代初頭(≒文化文政期)、天文方・高橋景康に師事した伊能忠敬は天文研究(地球の大きさが判れば正確な暦が出来る)の名目で蝦夷地へ渡りたいと願い出ると、対露防衛(文化露寇により不穏)のために蝦夷地の地図を欲していた幕府は地図の作成も命じました。帰還した忠敬の正確な地図に驚いた幕閣らは引き続き全国を測量させ、そうして大日本沿海輿地全図が完成しました。

 (蛇足)元禄期・田沼期・文化文政期など、文化や技術が発展するのは好況の時代が多く、緊縮を続けて齟齬が生じたなら積極財政に転じよと、ケインジアンにして双系・直系派のSは思うわけです。       

文責:京都のS

2 件のコメント

    京都のS

    2023年12月30日

     れいにゃん様、※ありがとうございます!
     今回は投稿受付の團十郎(ふぇい)さんに太字にする部分とウンコ色にする部分を指定させてもらいました(笑)。
     「文化芸術が花開いた時代は施政者が実力主義を採用していたから」の件は、平賀源内などを登用して「山師」と批判された田沼意次が政務を執った時代が相当しますね。しかし、そんな時代だからこそプロデューサー蔦谷重三郎が山東京伝・曲亭馬琴・十返舎一九らの作家や喜多川歌麿・東洲斎写楽・葛飾北斎らの絵師を見出し、その浮世絵は後にフランスの画壇にまで影響を及ぼしました。ゆえに「田沼を批判するなら印象派も否定しろ!」と言いたいです(笑)。田沼時代を描いたドラマ「大奥season2」は2025年の大河「べらぼう~蔦重栄華の夢噺」への導火線ですね(どっちも脚本は森下佳子)。
     「景気回復を『愛子天皇誕生』におんぶしてもらおうというのは、違いますよね」の件は、私の最も訴えたいことの一つです。愛子様立太子&ご即位が成ったとして、そのフィーバーも永遠に続くわけではないからです。高緯度成長期の終盤に東京五輪を開催して五輪後不況に突入したように、愛子天皇フィーバーが終焉したら慶事後不況が訪れるかもしれません。財政法4条(国債発行禁止)に「建設国債を除く」という抜け穴を開けた田中角栄(今太閤の異名あり)は五輪後不況を最小限に抑えたと言えます。
     国民が愛子天皇に「おんぶにだっこ」だった場合、またぞろ「皇族を税金で食わしてやってる論」から「皇室廃止論」へ導かれる可能性があります。ゆえに戦勝国群との国際公約と化した感のある財政法4条(国債発行禁止)を憲法9条2項(交戦権否認)と共に葬ることを考えねばなりません。憲法1章(天皇)に「皇族の人権擁護条項」を加えるための改憲も当然ながら必要です。

    れいにゃん

    2023年12月30日

    渋川春海を取り上げた「英雄たちの選択」は、見損ねていました。紹介をありがとうございます。江戸時代の年表を見ただけでも、緊縮と積極財政のサイクルの繰り返しだと分かるし、文化芸術が花開いた時代は施政者が実力主義を採用していたからこそ、身分制度がある社会でも為しえたのですね。何より、真理を追及するリアリストの情熱があればこそです。皇位継承問題では「男系に固執していては皇室は滅ぶ」このリアルを広める情熱が必要だと改めて考えます。
    蛇足が、結構大事なことで、景気回復を「愛子天皇誕生」におんぶしてもらおうというのは、違いますよね。

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