日本史上には「悪」という字を徒名に含む人物が数名います。平安末期、源平合戦の端緒となる保元の乱の首謀者の一人、藤原頼長は「悪左府」と呼ばれていました。この場合の「悪」は道徳的・倫理的な「悪」ではなく、自らの知力・体力・時の運をフルに使って名を馳せる「強さ」を指す言葉で、賞賛の意味も含んでいます。
また源頼朝の異母兄・義平は武勇に優れ、平治の乱では平清盛の嫡男・重盛の軍勢1000騎を17騎で打ち破ったとされ、「悪源太」と呼ばれていました。
そして一之谷や屋島で活躍した平景清は、源氏の世となり平家再興を断念して頼朝に降るも、預けられた御家人の館で断食して絶命したとされます。景清には「悪七兵衛」の二つ名がありました。
ところで、日本史上の悪女と言えば北条政子・日野富子・淀君ですが、いずれも政治的に辣腕を振るうタイプです。
しかし、北条政子は夫(源頼朝)の不倫相手(亀)を襲う嫉妬深さがクローズアップされ、日野富子は夫(足利義政)の乳母(今参局)や側室を追放する嫉妬深さと応仁の乱の両陣営にモノを売る守銭奴ぶりがクローズアップされ、淀君は夫(豊臣秀吉)の正室(おね)と対立して家臣団を分裂させ、子(秀頼)を得るために石田三成や大野治長と密通したという噂がクローズアップされました。
そうなのです。女性版の「悪」には「倫理的な悪」というイメージが付きまとい、これには朱子学的価値観が強く影響(女が強いのはケシカラン)しているはずです。
さて、承久の乱に臨んで尼将軍・北条政子は、朝敵の汚名を畏れる御家人たちを前に、あの有名な演説を行いました。「これが最後の命令です…鎌倉殿の恩は山より高く、海より深いものでしょう…源氏3代の残した鎌倉を守りなさい」と。
この演説によって奮起した御家人たちは朝廷軍が相手でも臆することなく戦い、その勝利により朝廷(宗教的権威)と幕府(政治的権力)が並び立つ日本の統治機構が完成しました。これは政子という「偉大なる悪女」の功績だと言えましょう。やはり我が国は、神代や古代だけでなく「中世も」女性がつくってきたと言えます。例外は朱子学を官学と定めた近世とその文化的遺制を引きずった明治~昭和まででしょう。
男系派諸氏に問いますが、歴史を重視するのが保守だと言うなら、こうした日本古来の国体(国柄)に還るべきではないのですか?愛子様が天皇になれない現状は、我が国の国体に反しているとは思われませんか!?
文責: 京都府 京都のS
7 件のコメント
京都のS
2022年12月24日
「聖徳太子」で推古帝を演じたのは松坂慶子、「大化改新」で皇極帝を演じたのは高島礼子、「大仏開眼」で阿部皇太子(後の孝謙帝)を演じたのは石原さとみでした。「壬申大乱(仮)」で持統帝を演じるのは、誰が良いでしょうね?私の希望としては、今「エルピス」で頑張っている長澤まさみ、歴史もので定評が出来つつある綾瀬はるか…ですかね。
平安京のS
2022年12月24日
突撃様、コメありがとうございました。三谷幸喜脚本ですから「新撰組!」のスピンオフ「土方歳三 最後の一日」的なアレですね?政子の場合だと静かなラストになりそうですけど。
次々回の大河は紫式部を主人公とする「光る君へ」です。紫式部役が吉高由里子、藤原道長役が柄本佑で、脚本は大石静です。
持統天皇を主人公とするドラマは、①「聖徳太子」、②「大化改新」、③「大仏開眼」という古代の女帝が活躍した時代を描いたドラマ3作(NHK、脚本は「麒麟がくる」「太平記」の池端俊策)があり、その各時代(①推古帝、②皇極・斉明帝、③孝謙・称徳帝)の残されたミッシングリンク(②と③の間)を埋めるために、私はNHKに持統天皇を主役とする「壬申大乱」というドラマ(3作にはタイトルに大や太の字が入っているので)を作ってくれと要望を出したことがあります。そして、要望メールには「愛子様のが立太子される時期に製作が間に合えば時宜を得たものになるはずです」と書き添えました。
突撃一番
2022年12月23日
大河ドラマのスピンオフで「北条政子最後の一日」やってほしいな。
あと、三谷大河の次回作は是非、『持統天皇』やってほしい!
女性・女系天皇の即位を祈念する意味でも、是非に!
壬申の乱という血みどろの権力闘争を、夫となる天武天皇と共に勝ち抜き、肉親との死別も経験しながらも、豪族による推挙を排除し、「天つ神」の神託によって即位する等々、数々の偉業を成し遂げた「スーパー女帝」ですよ!
美人で、演技力があって、何より「天皇」を演じても、どこからも批判が来なさそうな女優というのが、今の所ガッキーくらいしか思い当たらんのですが。
京都のS(サタンのSじゃねーし)
2022年12月22日
ダダ様、コメありがとうございます。右派も左派も権威と権力を混同していますね。左派は権力者を引きずり下ろしたい衝動を権威のみの皇族方に向け、右派は愛子天皇の世になれば天皇の権威(≠権力)が増すと直感しているから嫌がって男系を維持したがります。その状況を「二重橋を断ってやろう」と考えるカルトに利用されています。どうしようもないですね。
ダダ
2022年12月21日
北条政子。男だらけの武士の時代に豪傑ですね。
悪の意味も含めて勉強になりました。
男系固執派は女性天皇を拒否・否定しますが、国民は天皇にリーダーシップを求めているわけでは無いと思います。
旧宮家男系男子に正当性や権威なんて感じません。庶民感覚として愛子天皇です!
京都のS
2022年12月20日
基礎医様、ありがとうございます。「小悪党的な行為」とは、近現代的な価値観における善悪で言えば「悪」、中世的な強弱を意味する言葉遣いで言えば「弱」とカテゴライズできましょう。つまり、自己保身のための狡猾な悪、矢面に立たない悪、弱さを攻撃に変える悪であり、これは現代人では男に多い気がします。そんな時代だからこそ、強かな女性が上に立つ必要があると感じます。
ところで「鎌倉殿の13人」のラストは大興奮でした。小栗義時が「この世の怒りと呪いを全て抱えて、私は地獄へ持っていく」と言い、小池政子は義時がこれ以上苦しまなくて良いように解放してやりました。やはり劇中の政子も偉大な悪女でした。
基礎医学研究者
2022年12月20日
(編集者からの割り込みコメント)興味深く読ませていただきました。なるほど、「悪」といっても、我々が普段イメージしているような「小悪党的」な行為とは異なるのですね(あえていうと、必殺仕事人のように「悪の力で正義を成すこともある!」と)。で、話を女性天皇の方にもっていくと、歴史上を政治的な剛腕をふるえる実力者というのは京都のSさんもおり、それは男女関係なかった。だから、現代においてもそれは当然成り立つはずで、愛子さまはまさにそれにふさわしい!と、自分も思う次第です。