今回ご紹介する本は、小林よしのり/井上達夫共著『ザ・議論!「リベラルVS保守」究極対決』(毎日新聞出版、2016年)です。
本書は、漫画家であり保守思想の代表的存在でもある小林よしのり氏と、リベラリズムの重鎮である井上達夫氏が、日本の重要な諸問題について徹底的に議論したものです。
その最初(第1部)に取り上げられたのが「天皇制」。
本稿では天皇制に関する両者の議論を通して、前編・後編の2回にわたって、皇室の「自由」について考えていきます。
【前編:天皇制は奴隷制なのか?】
井上氏は「天皇制はいずれ廃止すべき」(22頁)と主張します。
理由は2つ。
1つ目が「天皇制は、大衆的な同調圧力を拡大する道具になってしまう」(26頁)から。
井上氏は昭和天皇が崩御した際、日本中が自粛ムードになった体験を挙げて、「天皇制そのものが大衆社会のシンボルだと考えるようになった」(24頁)と述べます。
私は平成生まれなので、当時の状況を実感として知りません。
しかし上皇陛下が生前退位を決断なさった理由の一つに、この自粛騒ぎがあったことは間違いないでしょう。
井上氏が天皇制に反対する2つ目の理由は「天皇・皇室の人権の蹂躙」(30頁)です。
周知の通り皇室の方々は、職業選択・居住・表現活動など、様々な面で自由を制限されています。
とりわけ天皇には退位の自由も認められていません。
こうしたことから、井上氏は天皇および皇室の方々を「奴隷的存在」(31頁)と言います。
これに対して小林氏は、今の上皇陛下も天皇陛下も「もっと積極的にその立場を引き受けているだろうと思う」(33頁)と応えます。
私も井上氏の主張に共感する部分はありますが、それだけではないと思います。
特に平成の御代、今の上皇陛下がなさってきたことを振り返ると、とても「奴隷」には見えません。
とは言え、皇室の方々の自由をもっと拡大すべきという点で、両氏は一致しています。
私も皇室にはもっと自由が必要だと思います。
少なくとも退位の自由は、皇室典範に明記するべきです。
というより、皇室典範を日本国憲法から切り離して、皇室にお返ししなければいけません。
皇室典範は本来、皇室の「家法」です。
その運用に当事者が意見を表明できないというのは、極めて理不尽で道理に反します。
皇室の自由を考える際には、まずここが出発点になるのではないでしょうか。
(後編に続く)
文責:福岡県 ゾウムシ村長
2 件のコメント
ookkuuy
2020年12月24日
「天皇は奴隷」と考えられる理由は納得します。が、退位礼正殿の儀の上皇陛下のお言葉に「これまでの天皇としての務めを,国民への深い信頼と敬愛をもって行い得たことは,幸せなことでした。」とあり、とても奴隷であったとは思えません。大事なのは、天皇・皇族と国民が双方深い信頼と敬愛をもつ関係であることだと思います。
また、皇室典範を天皇にお返ししたいと、私も思います。時間はかかるでしょうが、いつかお返ししたいです。
ダダ
2020年12月23日
皇室典範が形骸化しないように改正すること(皇室の意見が反映されやすくすること)は賛成です。
皇女制度と一代限りの女性宮家も特例法で対応するという報道がありました。法の理念というものを考えれば、特例法はもう制定してはいけません。
恒久法で皇室の願いを叶えたいです!