死者の願いと生者の希望

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令和4年5月15日に開催された「よしりん十番勝負 第二番 国家再生会議」で施光恒氏が語った話ー日本人の倫理はお天道様が見ていることーを聞いて私が連想したのは、漫画家小林よしのり先生の『新ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論2』の最終章「カミの国は死者の国でもある」のことでした。

小林先生は作中で「年を取ると死者を意識するようになった」と語りましたが、その死者の一部は、柳田国男の言う「お盆に帰ってくる先祖の霊」や「年末年始に来訪する歳徳神」や「山(冬)と田(春~秋)を往復するカミ」のことだと思われ、つまり「お天道様」とは山の上から村の子孫を見守るような存在(祖霊が集合したカミ)だろうと私は考えています。ちなみに、お盆の頃に現れるハグロトンボやショウリョウバッタを殺すなと教わるのは先祖の霊が姿を変えた存在だとされるからです。

さて、日本国内に坐す神々の中心は天照大神ですが、「皇位継承の男系限定」は天照(世系第一の皇祖神)を全否定するような行き方ですから、そんなものを歴代天皇が望むはずはありません。もちろん祖霊たちも皇統が絶えることを望むはずがなく、その子孫も8~9割は素朴に愛子天皇誕生を望んでいます。

詰まるところ施氏は、お天道様(日本的倫理観の源泉?)よりも自称保守世間(成員の多くは男系固執派)を優先したのであり、従って氏が例え内観法によって心の中で多くの人の立場に立って考えてみたとて、その内訳が男系派に偏っていたら結論は男系固執にしかなり得ません。ゆえに、やはり「日本人は(世間に)流されやすい」と断言せざるを得ません。

どうか男系派諸氏には祖先や神々の声なき声、そして現代を生きる子孫の願いにも真剣に耳を傾けていただきたく思います。

愛子天皇を戴くために。

**参考図書**

・『先祖の話』 柳田国男著 角川ソフィア文庫(初出 1946年)

・『新ゴーマニズム宣言SPECIAL・戦争論2』 小林よしのり著 幻冬舎(2001年)

・『本当に日本人は流されやすいのか』 施光恒著 角川新書(2018年)

文責 京都府 京都のS

14 件のコメント

    京都のS

    2022年6月10日

     冒頭に触れた小林先生の『戦争論2』について。これは『戦争論』への反論に対する再反論として描かれた部分(VS戦争犯罪捏造)と、執筆中に起こった9.11事件への感想「その手があったかー!!」との接合があり、その点を親米ホシュ派が訝りましたが、「同時多発テロはアイデンティティー・ウォーである」と定義され、最終章「カミの国は死者の国でもある」では日本のアイデンティティーとはコレじゃないかと提示される構造になっています。私は「死者は生者の身近に居るのだから、死者の聲に耳を傾けてみなさい」という意味に解釈しました。
     男系ホシュの方々にも聞いてみたいのです。愛子天皇を望む死者の聲が聞こえてきませんか?と。

    呪術高専京都校のS

    2022年6月10日

     基礎医様、同意ありがとうございます。前近代の日本では顕(生者)の世界と冥(死者)の世界が密接に繋がっていたのですが、死を病院に封じ込めたことで死生観に狂いが生じ、死者の声も聴けなくなった(死者が墓石で投票できなくなった)のだと思われます。生者の世間は声の大きい熱心派(ノイジーマイノリティーとしての男系ホシュ)に支配されています。
     現存する男系固執派は生者とは言え、もはや呪霊でしょ?って思いますね。

    基礎医学研究者

    2022年6月9日

    興味深く読ませていただきました。「どうか男系派諸氏には祖先や神々の声なき声、そして現代を生きる子孫の願いにも真剣に耳を傾けていただきたく思います」。まったくその通りかと思います。本来の保守、もっというと死者の民主主義とは、このようなことをいうのだと、改めて思った次第です。

    京都のS

    2022年6月6日

     ただし様、ありがとうございます。
     施氏にとっての「お天道様」は男系派世間、そうでしょうね。例え死者のことであっても、氏の心に浮かぶ死者の顔は男系派だった方でしょうし…。

    ただし

    2022年6月6日

     施氏の観念と言説が乖離している理由は、お天道様と捉えている対象が神々ではなく、男系村という狭い世間の多数派の意見でしかないからなのでしょうね。そこで思考停止していることに気付いているのか、どうか。

     山から村々を見守る祖霊の集合体とのお話しは、なるほどなあと思いました。同時に、まさにお天道様と思われる太陽神・天照大御神は女性であることが、施氏の頭の中からはスッポリと抜けてしまっているが故に、女性の視点に立てないのかなと感じました。

    京都のS

    2022年6月6日

     くりんぐ様、ありがとうございます。死者の意向を尊重、まさにそれです。不遜な現代日本の生者に足りないのは死者への忖度ですね。死者の意図を捻じ曲げて政治利用も行われる場合があるから厄介なのですが。

    京都のS

    2022年6月6日

     殉教様、ありがとうございます。後段は完全に同意です。前段の疑問について考えてみます。
     キリスト者やイスラム者は絶対者(唯一神)との対話から個を確立したとされますが、私は次のように考えます。異民族との戦争に明け暮れて大虐殺も多く体験してきた民族が城塞都市の城壁内で領主と交わした契約(城壁内で安全を確保してやる代わりに場外で敵と戦え)が個(公を含む)の確立を促したという大石久和氏の意見を説得的と感じます。神(絶対者)との対話は何度も何度も宗教戦争を誘発し、それゆえ上記の状態を促進したと感じています。
     一方で日本の神道は八百万柱でも済まない数の多神教だから価値相対主義に陥りやすいとされます。絶対者が居ないのですからその通りです。しかも日本人の世間には死後の世界(どこぞの浄土ではなく付近の山など身近な裏側の世界=冥の世界)も含みます。つまり日本の生者は死者の意思を忖度して生きてきたわけです。死者たちの統一意見だと認識すれば外敵とも戦えたでしょう。戦前昭和までの対外戦争でもそうしてきたはずです。ただし宗教的な弱さは確実にあり、そのことを対米戦争に勝てなかった理由に挙げる人もいます。そして、それに加えて現代日本では、死を病院内に封じ込めたことで死を意識することが非常に少なくなり、それが戦後日本に生命至上主義が蔓延した原因だと感じます。そして、冥の世界にいる死者を忖度もできないため、生者の世間のみが世を動かしていきます。男系派世間の言論人も(古代から近世までの女帝がいた時代の)死者たちの声を聴きません。
     疑問の答えに近づけたかは判りませんが、以上が私の考えていることです。

    くりんぐ

    2022年6月5日

    >ダダさん
    施氏の著書名がそのまま本人に当てはまっているのが何とも言えませんね。

    まんまと自称保守の世間に流されて、既に破綻している男系固執派の屁理屈を唱える施教授には非常に腹が立ちました。

    「男系継承」が定められたのは明治の皇室典範からであり、それ以前は生まれてからずっと皇族であれば男女問わず皇位継承が可能でした。8人10代の女性天皇の存在はその証であり、死者の意向を尊重するなら、女性・女系天皇へ道を開くことは自然なことでしょう。

    殉教@中立派

    2022年6月5日

    少々疑問がある。西洋人の「GODとの対峙」であれば、他の存在を崇めず、GODと自分で1対1なので、「個」は作りやすい。一方、日本人が先祖・死を身近に意識すれば(ある程度までは)個に近くはなるだろうが・・・彼らは「他の神を崇めてはならない」という「縛り」までは提供しないので、安定性には欠けるだろう(ただ柔軟性はある。大災害や、状況に適応する能力の高さがそう。まあ、マスクお注射への適応などは、完全に裏目に出ているが)。

    一方、男系派は「男の血がGODだ!これで俺の『個』が確立したぜええ!!」という立場。・・1・崇拝の方向性を間違えたり(天照大神を無視)、2・実は論壇世間に埋没しているだけで、「個」なんて確立してないだろう、3・妄想で精神を安定させ、現実無視するとは何事だ!・・などの突っ込み所が過積載である。
    思えば、小林先生の漫画は、「昔からの不文律」を(おじいちゃん達の代弁者として)私たちに伝えてくれる。勉強と実感から、そうした不文律を、少しでも後世に残したい。「愛子陛下」と共に。

    鬼殺隊京都支部のS

    2022年6月5日

     roku様、ありがとうございます。『~流されやすいのか?』では私も「ダブルバインド」とか「日本人の精神の3層構造」とか多くを学びました。『英語化は愚民化』にも感動したので失望感が一入(ひとしお)でした。
     お盆って習俗は仏教行事と思われていますが、本来これは日本独特のものらしいです。死者は浄土に行かず、近く(故郷の山)に留まって子孫を見守るのです。本当は日本人は「死者に墓石で投票し」(GKチェスタトン)てもらいやすい環境に生きてきたはずなんです。柳田は『先祖の話』を戦時中に書きましたが、戦災も復興も共に日本の景観と精神風土を破壊しました。そうして戦後日本は死生観がぶっ壊れました。今の日本は無惨な鬼だらけです。早く天照の化身(愛子天皇)を戴けるように日輪刀を振るわねばなりませんね。
     ちなみにハグロトンボは羽根も身体も細くて神秘的ですよ。

    呪術高専京都校のS

    2022年6月5日

     ダダ様、ありがとうございます。お天道様は太陽の事を指すと思われがちですが、集合した祖霊や田のカミ・山のカミがいて、その中心に天照大神が坐すと考えれば、幽冥界の住人(膨大な数の死者たち)が見ているから自分の振る舞いを正すことができ、それが日本的倫理ではないかと考えるわけです。また死者を身近に感じられれば不必要に死を恐れることも無くなり、コロナ如きを怖がることも生者の世間(男系派世間・親米派世間・護憲派世間・コロナコワイ世間…)ばかりを気にすることも無くなると思うのです。世間に絡めとられない思想を身につけるには、先祖や死を身近に意識することではないかと考えるわけです。そういう意識は負の想念を含む呪霊を寄せ付けないはずです。

    roku

    2022年6月5日

    『本当に日本人は流されやすいのか』私も読みました。当時はなるほど~と思いましたが、施氏には心底がっかりしました。
    また、昆虫のお話は私は知りませんでした。教えて下さってありがとうございます。

    呪術高専京都校のS

    2022年6月5日

     このヤバい方向に領域展開した文章を載せていただき有難うございます。改めて読み直すと、「十番勝負2」の施氏の態度に私は相当ムカついていたんだなぁ…と気付きました(笑)。
     男尊女卑の呪霊は祓いますが、カミガミになった祖霊は祓いません。

    ダダ

    2022年6月5日

    お天道様とは霊とカミ。そうだと思います。

    世界各国の神話は男性の最高神ばかりですが、日本は太陽の女神・天照大神。
    これは人類の中で際立っていて、保守派が好きな「日本スゲー」にはもってこいなのですが。。
    施氏の著書名がそのまま本人に当てはまっているのが何とも言えませんね。

    今上陛下は天照大神を祀っている伊勢神宮を参拝されています。
    女性神を始祖とするのが日本の神話なのですから、男系継承を伝統と捉えているわけがありません。

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