自由と規制の間~その悲壮な覚悟

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 復刊された皇太子殿下(執筆当時)の御著書『テムズとともに~英国の二年間』を拝読しました。本作は、皇族としてお生まれになって以来ずっと自由の無い生活を送ってこられた浩宮殿下が2年間オックスフォード大学に留学され、最初で最後の自由を満喫された日々が瑞々しい筆致で綴られた著作です。通読して驚かされるのは、たった2年間の学生生活において大学院生の本文としての研究(※殿下の研究テーマはテムズ川の水運史)以外に、趣味の管弦楽(殿下はヴィオラ奏者)、テニスやスカッシュ・登山・スキーなどのスポーツ、映画や演劇・音楽などの文化、滞在中に知り合った人々との英国各地への旅行、他国の王室との交際、そして殿下が在籍したマートンコレッジ(※コレッジは同じ敷地内に教授や学生が共に暮らし個別指導するシステム)での学生たちとの活発な交流など、眠る時間はあったのか?と心配になるほどの活動量です。裏を返せば、立太子してしまえば自由が無くなるから、最初で最後の自由だとの強い自覚があったからこそ、一生分の自由を2年間に凝縮するかのように活動されたと察せられ、その覚悟の悲壮さに私は落涙を禁じ得ませんでした。

 さて、英国への思い入れが強い故西部邁氏は英国の学生について凡そ次のように評していました(書名は失念)。「彼らは読書が趣味だなどとは言わない」「趣味を通じた社交に価値を見出している」「しかし読むべき本は大体読んでいる」と。西部氏が言うからには、そこには英国が誇る保守思想家EバークやGKチェスタトンも含まれているに違いありません。

 また、殿下は同著でオックスフォードの学生たちの社交上手ぶりに感嘆しておられました。学生同士は勿論のこと教授たちともコレッジ内外で社交する様子が描かれ、殿下も様々な局面で信頼関係を築かれました。おそらくオックスフォードで殿下が体験された2年間の自由は、その後の規制に満ちた皇族としての暮らしとの間で平衡を取り、今も強い活力源となっているに違いありません。

 ところで、成年会見などで拝した愛子様の覚悟は、浩宮殿下(当時)のそれと同種のものだと私は感じました。ゆえに、立太子が日程に上った愛子様が最後の自由を満喫するための英国留学に向かわれる日を私は心待ちにしています。   

文責 京都のS

3 件のコメント

    京都のS

    2023年5月1日

     れいにゃん様、「愛子さまの立太子が遅れてしまっている現状を、前向きに捉えることができる」件は、立太子が日程に上っている段階なら安心して留学していただけますが、今の段階で留学していただくことになれば、皇位継承問題からのドロップアウトが囁かれたり、あるいは逆に今上陛下(当時は浩宮殿下)と同じ留学先に決めたことが同じ先行きを志向したと受け取られ、そのことで「政治に関する権能を有しない」を侵したと言われかねません。あらゆる方面で難しいと思われます。
     『テムズとともに』は読んでいて楽しくなる本ですよ。

    れいにゃん

    2023年5月1日

    立太子してしまえば自由が無くなる。
    であるならば、愛子さまの立太子が遅れてしまっている現状を、前向きに捉えることができるかもしれません。「テムズと、共に」GW後半に読めそうで、楽しみです。

    京都のS

    2023年4月28日

     自由と規制との間で平衡を取って活力、平等と格差との間で平衡を取って公正、博愛と競合との間で平衡を取って節度、というのがフランス革命時に掲げられた三福対(自由・平等・博愛)に対する西部師匠の回答でした。

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