「正直なウソつき」の、『嘘だらけ』古代史語録②

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  【序章及び第2章】

●日本書紀は天皇の命により編纂された国の「正史」なので、日本古代史の基準は日本書紀である(p30~)

●神武天皇は実在しない!と言い切れる根拠はない(p73~)

〇貴方も少しは歴史学をかじっているのなら、一次・二次・三次資料の違いくらいは、わかりますよね? 

日本書紀は決して、「一次資料」ではないんですよ??
おおまかな定義は、以下の通り。

①研究対象となる時代において、当事者が書いたものを「一次資料」(例:軍の命令書、統計データ、日記など)
②一次資料を元に、後世になって作成したものを「二次資料」(論文とか新聞記事)
③そして、一次・二次資料を元に、新たに作成されたものを「三次資料」と言います(教科書、専門書、辞典など)。

無論、誤字脱字とか誤解に基づいた記述も少なくないので、たとえ一次資料といえども、批判的検証は欠かせませんがね。

日本書紀の場合、編纂を命じたのは天武天皇なので、当然ながら、神武天皇が即位された時代(今から2684年前??)にまとめられた資料ではありません。

継体天皇の即位年から数えても、200年以上も後に完成しているので、当然「六世紀前半に生きていた当事者が書いた資料」とは言えません。

記紀神話編纂の元になったとされる旧辞・帝紀にしても、後者に関しては天武天皇の時代に編纂されたという説はあるものの、原文が存在しないので、記紀神話がどこまでその内容を反映しているかという確実な検証はほぼ、不可能です。

神話が編纂された奈良時代当時の人々の社会通念を理解する、という目的であれば、『日本書紀』とて一次資料と見なせるかも知れませんがね(原文さえ残っていれば)。 神武や継体の即位事情を知る為の資料として見るのであれば、古事記も日本書紀も、言っちゃ悪いけど「四次資料以下」という事になってしまいますよ。

魏志倭人伝を、卑弥呼の時代から50年後に書かれた資料だという理由で「五次資料くらいの代物 (p121)」などとバッサリ切り捨てたアナタの事ですから、日本書紀だって同じように評価しないと、おかしいよね??

    ちなみに小林よしのり氏の『戦争論2』に曰く、資料価値が認められるのは、三次資料までです(この場合は「三次史料」と表記されているが)。

実際、学問分野によっては三次資料ですら、殆ど相手にされない事も多いらしいですよ。

編纂を命じた天武天皇の時代に「対外的に天皇の正当性を示す為に、からごころ混じりで万世一系的に粉飾した」という事は言えても、神武天皇とか欠史八代の時代を生きた当事者達の間に「男系継承の原則が存在した」という証拠には、ならないんですよ。

だからこそ、今回紹介する義江明子さんにせよ大橋信也さんにせよ、プロの歴史学者は決して、記紀神話をそのまま鵜呑みにはせず、出土した木簡とか、仏像や鏡に彫られた銘文とか、古墳や寺社仏閣等の遺跡からの発掘資料等と照らし合わせて、神話の記述も一定の参考にしながら、古代史の実態を明らかにしようとしてるんでしょうが。

時の天皇の正当性をアピールする為に編纂された歴史書なら尚更、「まず疑う」のが研究者としてアタリマエの態度ではないでしょうか?

先述の繰り返しになりますが、魏志倭人伝については「五次資料」などと罵っておきながら、時の権力者の都合で書いたに過ぎない『日本書紀』の話になった途端に、「なぜ、そのような書かれ方をしたのかが大事」などと、批判的検証をかなぐり捨てて、いきなり脳ミソ預けてマンセーし始めるの?

それはいくらなんでも、虫が良すぎないか??

「日本人はけっこう正直に話す特徴があるから・・・」とかなんとか、ロクに大人社会に揉まれた経験もない、ええとこのボンボンみたいなオコチャマ理論で、ウラも取らずに日本書紀を盲信するなら、アナタがどんだけ大学院で歴史を学んでいたとしても研究者失格です!!

何回もアナタに指摘してる事だけど、日本書紀の万世一系的な記述を根拠に「男系血統こそ伝統」なる主張を信用してほしけりゃ、まず「裏付け調査」をやりなさい!

文責 北海道 突撃一番

参考文献
・小林よしのり『新ゴーマニズム宣言SPECIAL戦争論2』 幻冬舎2001年11月15日

8 件のコメント

    黄泉瓜照令美

    2024年2月27日

    参考までに……戦後における、神武天皇からの初期天皇実在論と架空説を分析すると、以下の2点の言説がそれぞれ一貫している。

    1、『記紀』内の初期天皇系譜伝承は、後世の造作「である」。このため神武天皇などの当該天皇各代は架空「である」。

    2、『記紀』内の初期天皇系譜伝承は、後世の造作「ではない」。このため神武天皇などの当該天皇各代は「実在したのである」。
    以上のことから、戦後における初代神武天皇から9代開化天皇までの実在論を総括すると、実在論者が架空及び後世造作論者の論拠や主張を論破しても、実在論者自身が上記の初期歴代天皇が実在したことの決定的な証拠を発見していないことが特徴である。
    例えば、系譜伝承の古さを論証しても、伝承中の各代天皇そのものが実在した証拠の提示に至っていないのである。
    それはまた、なかったことを証明することが、あったことを証明する以上に困難であること、いわゆる消極的事実の証明(または悪魔の証明)の論理を盾にしているように見えるからだ。

    突撃一番

    2024年1月7日

    皆さん、多くのコメントありがとうごさいます!
    特に基礎医学研究者さんには、いつもながらベラボーな量の編集作業を押し付けてしまうことになりますが、なにとぞご容赦ください(m´・ω・`)m

    イントロ読んでない人の為に補足すると、本ブログは

    倉山満『嘘だらけの日本古代史』扶桑社2023年11月1日

    に対する【論破祭り】のブログです!
    そりゃ、なんぼ一次資料でないとはいえ、あんまり日本書紀をディスりまくるのも、俺の本意ではないんですけどね。
    ただ、男系カルトがマンセーかましまくってる「血統原理」の愚かさを浮き彫りにするには、現状、勉強不足な俺が取れる手段は、これしかないわけです。

    男系血統によって、皇統が未来永劫続く事を異常なまでに熱望しているくせに、「全部の天皇が血統で繋がっている」という確実な証明すら曖昧にしたまま、あろうことか「国民に対する血統差別」という暴挙にまで政治が突き進もうとしているという、この状況を改善するには、奴等に水ぶっかけてアタマ冷やさせなきゃダメなのです。

    「いやそもそも血統続いてないよね?」とね。

    基礎医学研究者

    2024年1月7日

    (編集者からの割り込みコメント)突撃一番さん。その①に間に合わなかったので、ここで御礼を。倉山の新著に挑んでいただき、感謝致します。苦行になりそうな予感がしますが(;^_^A、楽しみながら行っていただければと。昨年は、サトルさんが倉山の「皇室論」に挑まれ、その編集を自分させていただきましたが、今回も倉山の新著に関するブログ編集を再び自分がさせていただく栄誉(?)をもらいました( ̄▽ ̄;)。引き続き、よろしくお願いします。

    >サトルさん
    コメント、および激励ありがとうございました。ホロン理論。アーサーケストラーの『機械の中の幽霊』に出てきた概念でございますね(自分は、栗本慎一郎の著書で知りました)。ケストラーはこの理論を、自然科学の還元主義とは真っ向から対立する概念として提唱し、「構造ということを考えた場合、”部分”を構成するものは存在するが、それは単なる部品のようなものではなく、全体としての性質を持つ”要素”である」、という感じで定義していましたかね。もしそうならば、確かにサトルさん言われるように、「合体ロボ主義」はピタッとハマりますね。そしてこのことは、今週のだふねさんのGJへのコメントに対して自身が言われていた、「一人一人「自分に何ができるか」を真剣に考え、寄り集まれば、それが世論を動かす大きな力になると考えます」ということとも、つながってきますかね(^_^)。

    SSKA

    2024年1月7日

    天皇を神格化し暴走に歯止めを掛けられなくなった戦前の万世一系主義と男系主義が補完的な関係にあり、国家を衰亡させた歪な思想を男系派が現代の世に再浮上させようとする経緯が良く分かり勉強になります。
    確証の無いものを事実であると信じ込む反知性、反教養的姿勢が隅々にまで行き渡る事で国民全体に不幸をもたらした過去を顧みる事のないこの手の人達に歴史や国家を語る資格は一切無いはずですが、現実には勉強会等と称して国会議員にまで影響を広げ考古学的にも史料的にも確証があると公言する者まで現れるのだから困ったものです。
    戦前戦中と国家の中枢に身を置きながら、この思想に最も悩まされ憂いておられたのが昭和天皇であり、現在の皇室もそのお考えを引き継いでいる中で万世一系=男系主義を理念において受け入れる訳がないのは明らかですし、しきたりやルールとしても現実として無理がある以上、拒否するのは当然の事です。
    Y染色体等と科学的偽装を施さなければ、現代人には到底受け入れ難い本来は相当に如何わしい思想である事も改めて分かります。

    京都のS

    2024年1月7日

     連載2回、お疲れ様です。これを踏まえてギター侍に斬ってもらいましょう。

     男系の~倉山は~「『魏志倭人伝』は信用できないけど『日本書紀』は信用できる」ってゆっじゃな~い?でもアンタ!そういうシナ嫌いを表明しながら皇統問題では「シナ男系主義」の発想しか出来てませんから!残念!漢意(からごころ)大好き志那スタイル斬り!

    サトル

    2024年1月7日

    理系……じゃなく、哲学でしたね💦

    サトル

    2024年1月7日

    追伸コメント(私信ですm(_ _)m)

    基礎医さんの編集は、いつも、さらに解りやすくなり素晴らしいです。

    特にわたくしは随分助けられましたので、あらためてm(_ _)m(合体ロボ……ですね(笑))理系的にいえば「ホロン理論」でしょうか。

    サトル

    2024年1月7日

    大変興味深く拝読しました。
    相変わらずですね倉山は┐(´д`)┌
    本来「資格、素養(素質)がない」人物が、飛行機操縦してるようなもんです。
    乗客(読者)は、たまったもんじゃありません。
    倉山は「同一著書内にて常に」論理のダッチロールを繰り返す……あらためて確認できました。

    難しいことわからなくても、普通……健全、健康な感覚があれば、「なんかオカシクネ?」と気づくんですけどね(ukiさんの見事な表現をお借りしました(笑))

    「水平器」を持ち、倉山の飛行(非行)に付き合ってる突撃一番さんに敬意を。
    かなり「乗り物酔い」で、体調を崩されたことと思います。感謝です。

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