古代の双系社会と皇位継承(1)

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いわゆる男系派の人たちは、皇位は男系で継承するのが歴史上一貫した原則であり、8人10代いた女性天皇は「中継ぎ」として例外的な存在だったと主張しています。

しかし、近年の歴史研究により、

古代の日本は双系(双方)社会であり、女性天皇は決してそのような軽い存在ではなかった

ことが明らかになってきました。

これは現在の皇位継承問題の議論とも関係する重要な内容であるにも関わらず、一般にはあまり知られていません。

そこで、このブログでは、近年の研究が明らかにする古代の女性天皇の姿を、以下の章立てでご紹介します。

1.双系社会だった古代日本(今回)

2.重要な役割を果たした女性天皇 (6/3 掲載予定)

3.女性天皇の御子にも皇位継承資格があった (6/5 掲載予定)

4.時代によって変わる皇位継承のあり方 (6/7 掲載予定)

なお、文中で使用する称号は、一部を除き王(大王)、王子、王女を用いず、天皇、皇子、皇女で統一しています。

1.双系社会だった古代日本

古代日本における女性天皇のあり方を決めた大きな要素として、当時の日本が双系(双方)社会であったことが挙げられます。

それを示す例を厳格な父系社会だった中国との比較でご紹介すると、以下のようになります。

中国では、父系でつながる一族は同じ姓を称し、一族内での婚姻は禁じられていました(外婚制/同姓不婚)。

外婚制は、父系社会の指標となります(成清 2001)。

これに対し、古代日本の社会には外婚制は認められず、皇族や有力氏族は近親婚をくり返していました(義江 2021)。

また、婚姻形態も、古代中国が嫁取り婚(夫方居住婚)であるのに対し、古代日本は妻問い婚(別居訪問婚ないし妻方居住婚)であり、天皇のキサキたちは自分自身の宮で自分の生んだ御子たちを育てていました(義江 2021)。

さらに、親族の名称からも、日本が双系(双方)社会であったことが分かります。

中国の歴史の中で唐においては、父方のオジ・オバは「伯・叔父」、イトコは「従父兄弟姉妹」であるのに対し、母方のオジ・オバは「舅・姑」、イトコは「内兄弟姉妹」(舅の子)、「従母兄弟姉妹」(姑の子)と名称が異なり、父系的親族組織を如実に表しています。

しかし、日本では父方・母方ともに「ヲヂ・ヲバ」、「イトコ」で区別がなく(成清 2001)、双方との関係に差がなかったことが理解できます。

このように双系(双方)社会だった古代日本では、血統的地位の決定にとって父母双方の影響は大きく、また女性の財産所有や社会的地位もひろく認められており、これが6世紀末~8世紀後半にかけて女帝を輩出する基盤となりました(成清 2001、義江2021)。

次回は、古代日本における女性天皇の姿を、双系(双方)社会との関連で説明します。

参考文献

成清弘和 2001 『日本古代の家族・親族』岩田書院

義江明子 2021 『女帝の古代王権史』(ちくま新書)筑摩書房

文責 東京都 りょう

次回は 6/3(木)掲載予定 2.重要な役割を果たした女性天皇 

13 件のコメント

    和魂

    2022年2月20日

    妻問い婚のもと、実家の財産を女性が相続していたことは、女性の名前にもあらわれていると思います。推古天皇の和風諡号は、豊御食炊屋姫、続く女帝斉明天皇の和風諡号は天豊財重日足姫(あめとよたからたらしひめ)、推古天皇の方は、食材が溢れている厨房のお姫様、斉明天皇の方は、宝が溢れ満ち足りたお姫様といずれもお金持ちです。仁賢(にんけん)天皇即位までの期間に、女性ながら、天皇の行事を行った人、あるいは最初の女性天皇とも推測されるのが、飯豊青皇女。彼女の名も金持ちを暗示します。豊葦原の瑞穂の国で財産を相続していたのは女性だったと思います。

    さんかく

    2021年6月3日

    「女系天皇を認めれば、皇室が終わる。王朝が変わる。」この理屈って本当に意味不明です。日本青年会議所に所属する企業経営者の中に、創業者一族の女性と結婚した「婿養子さん」はいらっしゃらないのでしょうか?その夫婦から生まれた子供(特に男子)は一体何者ですか?創業者の姓を名乗り、いずれ会社の跡継ぎになるのではないですか?この子は母を経由して創業家の血を継ぐ「女系」にほかなりません。「女系を認めれば皇室が終わる、王朝が変わる」というのは、婿養子を完全否定しているのと同じことです。ついでに、男系固執派の安倍晋三さんが、岸信介の墓参りに行くのも謎です。あなたは岸信介の娘を経由した「女系」の子孫ではありませんか(笑 「女系」を否定するのならあなたこそ岸信介の墓参りはやめるべきです。

    まー

    2021年6月3日

    「やっぱ奥さんの実家の近くに住むのがいいよね~」というのは現役世代の常識です。
    妻問い婚に回帰してきているのかもしれないですね。
    変なイデオロギーや思想、固定概念を捨てれば、そういう結論になるとは思います。

    さんかく

    2021年6月2日

    歴代天皇は初代神武から126代今上陛下まで、全員が等しく尊いのです。それを「中継ぎ」なんて失礼極まりないです。しかも「中継ぎ」ならば、なぜお二人(皇極・斉明天皇と孝謙・称徳天皇)も、重祚された女性天皇がいらっしゃるのか?

    ダダ

    2021年6月2日

    日本には双系の土壌があったのですね!
    とても勉強になりました。ありがとうございました。
    残り3回、楽しみにしています☆

    愛知のT

    2021年6月1日

    今回のブログひとつとっても、私はある気持ちを抱きます。

    なんというか、ホッとするというか、穏やかな気持ちになるというか。

    ①日本は古来から双系社会であり、性別に寛容の文化である。

    というのと

    ②日本は古来から男系に固執し、ひとつの性別への優遇を頑なに続けてきた。

    ①と②なら、どちらの日本であってほしいでしようか。

    そして今後はどちらの日本でありたいでしょうか。

    そしてそれを最も象徴するものはなんでしょうか。

    シリーズ楽しみにしております!

    京都のS

    2021年6月1日

     山本七平の『日本的革命の哲学』を読むと、「継受法」「固有法」という概念が出てきます。中国から取り入れた「律令」が継受法で、日本古来の不文の常識から立ち上がった「貞永式目」が固有法です。式目には女性が家の当主となる場合の決め事も書かれており、それが日本の常識だったことが窺えます。また、養老律令は継受法であるにも拘らず、継嗣令に「女帝の子もまた同じ」という原注があり、深く根付いた常識が顔を出したものだと思われます。
     ちなみに『日本的革命の哲学』は、関岡英之氏の『拒否できない日本』の最終章で紹介されており、TPPを拒否する日本の戦い方として提示しています。『拒否できない日本』と言えば、小林先生の『目の玉日記』で、白内障を患った先生が同じ書籍を何冊も買ってしまった記録として、書斎や机に大量の本が溢れる大ゴマで最も多く描かれていた本です。

    基礎医学研究者

    2021年6月1日

     双系シリーズ1回目、興味深く見させていただきました。そして、非常に勉強になっております(m_ _m)。先にたこちゃん様が言われておりましたが、「女系天皇を認めれば、皇室が終わる」なんてのは、「ドグマ(教条主義)」以外の何物でもないと、私見では思います。それに較べて、りょう様が引用してくれている最新の研究成果は、へんな先入観を入れずに研究結果を発表していると見受けられました(対象が自然現象である自然科学とは、仮説の設定などは異なるのかもしれませんが、私見ではそのように感じました)。
     それでは、次のシリーズに期待致します。

    ねこまる

    2021年6月1日

    妻問い婚で思い出したのが『源氏物語』。
    光源氏が正妻の葵の上に会いに行くのは妻の実家でしたね。
    伝統と思っていたものも、実は近年に出来たものだったりしますから、合わないなら元に戻すという判断は大切だと思います。

    チコリ

    2021年6月1日

    双系の話から、ちょっとずれてしまうかもしれませんが、すみません。
    いまどき「男尊女卑」なんて時代錯誤だ、と疑問すら持たない人は、
    意外に、根底に「男尊女卑」があたりまえに染み付いてしまっていて、自分でも全然気づかない、という落とし穴がある。

    私がそうでした。

    皇室存続の危機!という最大の国難にあって、原因はただ一つ、「男尊女卑」と始めて聞いた時、唖然としてしまい、

    そんなわけない!こんな重要な事が解決できない理由が、ただの「男尊女卑」なんて、そんな理由なんてありえない!
    何言ってんの、おかしいよ!と混乱してしまい、
    ショックでしばらく道場から遠ざかってしまったほどでした。

    原因は、私自身が、「男尊女卑」的な環境に育ち、それが生まれながらにあたりまえで、疑問すら持ったことがなかったからです。
    「男尊女卑」という言葉は、私の辞書にはなかったのかもしれません。
    男性はそういうもの、女性はそうするもの、みたいな感覚。
    男性は、女性は、そういうものと無意識に刷り込まれていました。
    中心に立つのは必ず男性で、基本的に女性は後から黙ってついて行くもの、という感覚。

    しかし、冷静になれば、皇室の存続を阻むものは、やはり「男尊女卑」以外の何ものでもなく、「女だからダメ!」という、たった、たったそれだけの事でした。
    あまりに愚劣で野蛮な、信じられない事でした。
    その事に気づけなかった自分に、愕然としたものです。

    今も、私の周囲に、男系にこだわる人がいますが、自分の中の、実は野蛮な男尊女卑に、気づいていないんだな、としみじみ感じています。
    現在意識で気づいていないけど、男尊女卑が潜在意識に刷り込まれてしまっているのだとおもいます。
    いつも、ご主人の許可を得ないと行動できない事からも、
    中心は男性、女性は男性に従うもの、それが調和の道、という公式が出来上がっているのだと感じてしまいます。

    ちょっと極端な例かもしれません。
    個人的な感想です。すみません。

    たこちゃん

    2021年6月1日

    5月31日に行われた皇位継承に関する有識者会議で、性懲りも
    なく、「女系天皇を認めれば、皇室が終わる。王朝が変わる。」
    という意見がでたようですね。
    この意見を出したのは、曽根香奈子氏。
    ネトウヨと親和性の高い日本青年会議所の関係者です。
    青年会議所の関係者という前に、ご自身も女性であるのにも
    関わらず、女性を貶めるようなことを発言するとは、同じ女性
    として理解に苦しみます。

    よっしー

    2021年6月1日

    双系シリーズ、興味津々です。
    私も古代日本の家族の形、それを基盤とした古代日本の女性天皇に興味を持ち、古代の日本家族の在り方が書かれた本を読んだことがありました。
    今、古代の本来の日本の姿へ還る動きが民間家庭でも起こっているのでは?と生活している中で思わされることがあります。
    双系シリーズ、楽しみです(^^)

    ただし

    2021年6月1日

     妻問い婚の方が、男も女も子供もお祖父さんもお祖母さんも、み~んなが幸せなんじゃないかと、想像すると思えました。

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