ご意見募集した、「女性天皇・女性宮家は不可能なのか?」について投稿をいただきましたのでご紹介します。なお、ブログ用に少し体裁を整えさせていただきました。(ブログチームより)
拙劣ながら私もこの問題に関して意見を述べさせていただきます。
愛子天皇を不可能にさせているものと可能にさせる方策を箇条書き形式で書いてみました。
少し読みづらいことがあるかもしれませんがご容赦ください(敬称略)。
【不可能にさせているもの】
パート1:一般論
<基礎知識の欠如>
・勉強不足(最新の日本古代史の研究成果や日本の親族の在り方に対しての無知。)
・勉強不足ゆえの確信のなさ(知らないから、男系継承が日本の伝統であるとの主張になびく。)
<日本人の順応傾向>
・日本人の大勢に順応する傾向、いわゆる「正解」を追い求めようとするタイプが多いこと。(声が大きい人間に合わせておくほうが無難という心情。)
パート2:男系男子派の心情「なぜそんなにも頑ななのか」
<自己肯定感の低さ>
男系男子の天皇こそがあるべき姿であり、これがなくなれば日本でなくなると思っている。(いわゆる日本を思う「保守派」に多い。)
なぜそう思うのかというと、単に勉強不足という面もあるが次のようなことが指摘されうる。
高森先生がたびたび取り上げている精神分析学者の岸田秀の分析によると、天皇は白村江の戦いで負けた悔しさ・劣等感・コンプレックスを解消するために作られたもの。
コンプレックスを否認するために、神話の時代から皇統が続いているという天皇を日本は持っているという天孫降臨神話を作り上げた。
神々の世界と直接つながる天皇という、他国の皇帝を超越した存在を日本は持つということで他国に対する劣等感を克服しようとしたのである。
天皇は日本人の劣等感を克服し、他国に対する優越意識を醸成するために作られたというのが岸田秀の分析の主旨。
改めて考えると男系男子派の主張には、「他国とは比類なき存在である天皇」「天皇がいるから日本人は幸せ」などの優越感を示すフレーズが多いような気がする。
岸田秀の分析を援用すれば、神話の時代から続く万世一系・男系でつないできた皇統である、というのが男系男子派の主張は、本当は劣等感・コンプレックスにまみれた自分たちに優越感・自信を与えてくれるもの。
だからこそ「男系継承が唯一のルール」という絶対不可侵の考えが生まれてくる。
しかしそのような優越感は自分への不安、自己肯定感の低さの裏返しでもあるから自分たちの心を守ろうとして過敏になる。
すなわち強迫神経症である。
自己肯定感の低さは、自分と他者を比べて過度に劣っている部分を意識してしまうことにある。
男系男子派も含め日本人は心のどこかで自分たちが他者と比べて自分が劣っているのではないかという不安(というより強迫観念)を持ち続けているので、なかなか問題を解決できなくなっている。
皇位継承の問題を不可能にさせているのは、自分たちの自己肯定感の低さ、ありのままの自分たちを見つめられない心のありかたである、というのが筆者の主張。
結局本当は天皇のことは敬っておらず、単なる自慰として主張しているだけ。
坂口安吾が「最も天皇を冒涜するものが最も天皇を崇拝していた」と喝破した現象が今も続いている。
【可能にするための方策】
<今までの取り組みの継続>
①天皇は男系だけでつないできたのではないという歴史的事実のさらなる周知。
②日本の親族構造に対するさらなる周知。
③上皇陛下や天皇陛下が女系容認の考えであることを改めて伝える。
<今後の取り組み>
④日本人自身の自己肯定感の低さに対する思想の展開
⑤天皇が他国に比べて秀でているという意識的・無意識的な思想の払しょく。(昭和天皇のいわゆる人間宣言にも通底する)
⑥天皇を日本の誇りというとらえ方から、日本と日本人にとって必需のものというとらえ方に切り替えること。
⑦天皇に対して過度に神秘性や期待をかけることをせず、そのうえで尊重する心構えをするようにする。
多少込み入ったことを述べてしまいましたが、ご参考にしていただければ幸いです。
なお以下が参考文献です。
・『堕落論』坂口安吾(新潮文庫)
・『女性天皇論』中野正志(朝日新聞社)
・『万世一系のまぼろし』中野正志(朝日新書)
・『本当に女帝を認めてもいいのか』八木秀次(洋泉社)
・『日中親族構造の比較研究』官文娜(思文閣出版)
・『女帝の古代王権史』義江明子(ちくま新書)
・『持統天皇と男系継承の起源』武澤秀一(ちくま新書)
・『日本史を精神分析する』岸田秀他(亜紀書房)
(メールより)文責 香川県 かっしー
7 件のコメント
ただし
2021年7月6日
頭の中を整理させて頂きました。
大変、有難いです。
どうも、ありがとうございます。
m(_ _)m
チコリ
2021年7月4日
「本当は天皇のことは敬っておらず、単なる自慰として主張しているだけ。」
私もそう思います。
タルト
2021年7月1日
ご投稿から学ぶことが多く、何回も読み返したいと思います。男系派の「自己肯定感の低さ」「男系男子の天皇こそがあるべき姿であり、これがなくなれば日本でなくなると思っている。」の精神分析、男系派と意見を交わすと、まさにその通りだと思えます。彼らが感情的に過剰反応するのも「自分たちの心を守ろうとする」、「強迫神経症」と思えば肯けます。「日本人の順応傾向」は「同調圧力に弱い」に似ていますね。「和を大切にする」なら良いのですが、盲目的に「大勢に順応」するのは問題があります。「和して同ぜず」が大切ですね。とても分かりやすく奥深い文章です。ご投稿、有難うございました。
ダダ
2021年6月30日
投稿ありがとうございました!
精神分析、とても勉強になりました。
自分のコンプレックスを補完するために、(男系男子限定の皇統を捏造し)天皇を利用している。なるほど~、と思うと同時に、敵が感情論に成り立っているのであれば、問題解決の困難さも見えてきました。
歴史的事実や今上陛下の考えを理解できない男系派は、一生、考えを変えませんよね。議論もできません。粛々と皇室典範を改正するしかないです。
基礎医学研究者
2021年6月30日
非常に興味深く読ませていただきました(いや、勉強になりました)。なるほど、まず男系派の姿勢は「自己肯定感の低さからくる」というのは、非常に説得力を感じました(正直、そのような”虚勢”を張らなくても、天皇制は充分世界から尊敬を集めていると私見では思いますが。。。たぶん、そうしないと「気がすまない」のでしょうね。
それから、「日本人の順応性傾向」という事も、なかなか考えさせられました。「正解」を追い求めようとする傾向がある、なるほど。これは、斬新でした。確かに、世の中には正解がない問題は多いと思いますが、この問題に対処する「緊張感」を持続するためには、悔しいですが、古代ギリシア・ローマの「レス・プブリカ」を体現する「個の力」の方が優れているのかもしれません。しかし、将来的には、日本人は本来持っている集団性に加えて、緊張感に耐えられる「個の力」を獲得して融合できることを信じたいところであります。
msmck412
2021年6月29日
拝読しました、改めて勉強させて頂きました。有難うございます。
男系に拘る人が勉強不足・知識不足であるのよく分かります。因習に捉われない未来へしっかり継続出来る天皇・皇室を求めてますが、偏った人達への啓蒙は本当に難しいと感じてます。
京都のS
2021年6月29日
見事な分析です。特に<今後の取り組み>の「⑥天皇を日本の誇りというとらえ方から、日本と日本人にとって必需のものというとらえ方に切り替えること」や「⑦天皇に対して過度に神秘性や期待をかけることをせず、そのうえで尊重する心構えをするようにする」は、皇室を戴く日本人としての自分を底上げしたい右派にも、天皇を貶めさえすれば満足という左派にも痛い言葉でしょう。左派には必要性を強く説いていく必要がありますが。
<日本人の順応傾向>の「日本人の大勢に順応する傾向、いわゆる『正解』を追い求めようとするタイプが多いこと」は、昭和天皇も危惧しておられた勝ち馬としての「正解」に乗りたがる付和雷同性のことですね。皆と同じでないと不安だという性質はコロナ自粛禍でも猛威を振るっています。これから小林先生が挑戦されるであろう「日本人論」にも通じていると思います。
<自己肯定感の低さ>の「精神分析学者の岸田秀の分析によると、天皇は白村江の戦いで負けた悔しさ・劣等感・コンプレックスを解消するために作られたもの」は、日本人の自信の無さが天皇を作り上げたという見解ですね。これは「良いものは必ず海の向こうからやってくる」と信じる島国根性(古代:中国、近代:欧米)の裏返しとして、海の向こうの国と対立した時に起こる不安と緊張を、自尊感情を高めて解消するという作用を天皇の存在に求めたわけであり、これは大東亜戦争の渦中にある日本でも起こったことだと思います。戦前も戦後も天皇に甘えっぱなしの日本人に「天皇を戴く資格はありや?」と問いたい思いが募ります。
いやー見事でした。ありがとうございます。