前回からの続きです。
6 女系でも「血統は受け継がれる」と三橋(京橋)自身が説明する
さらに重要なのが、白壁王・井上内親王・他戸親王の話です。三橋(京橋)は、他戸親王について、
「つまりは、他戸親王が次の天皇として即位すれば、聖武天皇、さらには天武天皇の血統が受け継がれることになる。男系ではなく、女系になってしまいますが。」(p.157)
と説明します。my(サクラちゃん)が「継体天皇のケースと同じというわけか」と受けると、三橋(京橋)は「同じですね」と答えます(p.157)。
ここで三橋(京橋)は、女系を経由しても「天武天皇の血統が受け継がれる」こと自体は明確に認めています。
もちろん、「血統が伝わること」と「皇位継承資格が女系で継承されること」は同じではありません。だからこそ、次の説明が必要になります。
三橋(京橋)のいう「血統」と「皇統」は、どこで分かれるのか。女系でも血統が受け継がれるのに、なぜ皇統は男系だけなのか。その基準は何なのか。
ところが、道鏡事件では「皇統外の男子を排除した」ことが、そのまま「男系皇統を守った」という話になっています。この二つの説明を繋ぐ定義が必要です
7 称徳天皇が危険だった理由を説明すると、「女性」が原因から消えていく
p.161以降、三橋(京橋)は、群臣たちが避けたかったものをこう説明します。
「それは、宗教的な権威を帯びた、絶対的、専制的な天皇の出現です。」(p.161)
さらに称徳天皇について、
「実は、何気に称徳天皇は、日本史上、最も権力が強固だった天皇の一人だった。」(p.161)
と述べ、その強大な権力の理由として、血筋、皇太子から即位した正統性、仏教界の支持、本人の宗教的地位、恵美押勝の乱での勝利、光明皇后から引き継いだ権力などを挙げます(p.162)。そして、強大な政治的パワーを持ったからこそ、道鏡を皇位につける「チャレンジ」ができた、と説明しま
す(p.162)。
ここまで三橋(京橋)の説明をそのまま読むと、危険の原因は「女性だから」ではなく、「天皇に宗教的・政治的権威と権力が集中したから」とも読めます。
ならば、p.85の「女性が権力を握るから危険」という説明とは、どう繋がるのでしょうか。
8 男性の山部王にも、有力男性が近づき皇位継承へ介入する
さらに山部王、後の桓武天皇の場面では、三橋(京橋)は藤原百川について、
「山部王の立太子は、王と昵懇の仲だった藤原百川が主導したと考えられています。」(p.180)
と説明します。my(サクラちゃん)が、百川は親友の山部王を皇太子・天皇にするため井上皇后親子を陥れたのかと問うと、三橋(京橋)は、「そうとしか考えられません。」(p.180)と答えます。
これをp.85と並べると非常に分かりやすい。最初は「女性権力者に野心ある男性が近づき、皇統を危機にする」ことが男系の理由でした。しかし三橋(京橋)自身の後の説明では、男性の皇位候補にも有力男性が接近し、皇位継承へ介入しています。
この現象を説明するのに、本当に「女性であること」は必要でしょうか。
9 my(サクラちゃん)は何をしているのか
この本は対話形式なので読みやすい。その読みやすさを作っているのがmy(サクラちゃん)です。my(サクラちゃん)は、知らない読者の代わりに質問するだけではありません。三橋(京橋)の説明を要約し、驚き、納得し、ときにはかなり詳しい知識を使って次の話題へ繋ぎます。
ところが、「その事例は女性天皇固有の問題なのか」「男性天皇でも同じ現象が起きていないか」「皇統外の男子を排除する話から、なぜ女系まで排除できるのか」といった、最初の結論そのものを検証する質問はほとんど入りません。
その結果、読者は長い歴史物語をスムーズに読み進められる一方、「最初の問いに、本当に答えているのか?」を確認する機会を失いやすい構造になっています。
意図的な演出だったと断定する必要はありません。文章上、my(サクラちゃん)が「批判的な検証者」より「説明を前へ進める読者代理・進行役」として機能している、という観測で十分です。
10 100頁ほど読んだ現在地
p.85では「なぜ男系なのか?」から始まりました。ところがp.187まで読むと、藤原仲麻呂、淳仁天皇、称徳天皇、道鏡、和気清麻呂、天武系皇族の断絶、光仁天皇、井上皇后、他戸親王、藤原百川、桓武天皇、早良親王、長岡京、そして森林資源・木材の話まで進みます。
歴史読み物として話が続いていることと、「なぜ男系なのか」が論証されたことは別です。
むしろ三橋(京橋)が事例を増やすほど、本の中から見えてくるのは、
皇位継承候補が存在する → 周囲に政治勢力が形成される → 候補者同士・勢力同士が争う →擁立、廃太子、失脚、処罰などが起きる
という構図です。この構図は女性天皇を必要条件としていません。
11 三橋(京橋)の酷さが一番分かりやすいところ
ここまでで問題なのは、歴史の細部をたくさん知っていることではありません。むしろ逆です。大量の固有名詞、事件、系譜、官職、注釈が積み上がるため、非常に精密な論証を読んでいるように感じやすい。
しかし、細部が正確であることと、その細部から結論が論理的に導かれることは別です。
三橋(京橋)の本を三橋(京橋)自身の記述だけで追っても、少なくともp.187までには、次の橋が残っています。
①「女性権力者は危険」→ なぜ男性天皇の時代にも同種の政治介入・権力闘争が続くのか。
②「皇統外の臣下を天皇にしない」→ なぜ「男系限定」になるのか。
③「女系でも血統は受け継がれる」→ 「血統」と「皇統」を分ける基準は何か。
④ 古代の政治権力を持つ天皇をめぐる争い →なぜ現代の皇位継承制度にも同じ原理を適用できるのか。
*なるほど、細部が正確でも、それが直ちに推論の正しさにはつながらないですか!?たしかに、1つ1つの知見がうまく説明されたとしても、問題はその知見が推論を証明する証拠になっているのかどうか?ということですかね?(裁判における、弁論と似ているように思えました(by基礎医)
12 そして最大の「遠すぎた橋」
ここまでの検証は、まだ古代史から「男系」という結論へ橋が架かっているかを見ている段階です。しかし、現在の皇位継承問題で問われているのは、現代日本における安定的な皇位継承です。古代とは政治制度も身分制度も婚姻制度も社会構造も異なり、現在の天皇は憲法下の象徴です。したがって、仮に古代史から「当時は男系を維持する合理性があった」と証明できたとしても、それだけでは終わりません。
古代史 → 男系の必要性 → 現代制度でも必要なのか → 安定的な皇位継承にどう寄与するのか →現代の象徴天皇制とどう整合するのか
この橋をすべて架けて初めて、古代史が現代の制度論の根拠になります。p.187現在、最初の「古代史 → だから男系」という橋そのものがまだ十分に架かっているとは言い難い。その先には、さらに現代制度と象徴天皇制までの長い橋が残っています。
*「遠すぎた橋」。リチャード・アッテンボロー監督による、連合軍の失敗(マーケット・ガーデン作戦)を描いた戦争映画(1977年)のタイトルですね。実はここに、「羊たちの沈黙(1991年)」でレクター博士を演じて有名になる前の、アンソニーホプキンスが出演していたのは、ご存じ?(by基礎医)
結論 歴史の量ではなく、「繋がる?」で読む
三橋(京橋)の本を批判するために、三橋(京橋)より多くの古代史知識を持つ必要はありません。まず本人の説明をそのまま受け取ればいい。そのうえで、一つだけ問い続けます。
「その根拠から、その結論、本当に繋がっていますか?」
p.85で「女性が権力を握ると野心ある男性が近づくから男系」と始まった説明は、p.187まで進むうちに、男性天皇・男性皇位候補をめぐる政治介入や権力闘争を大量に描くことになります。道鏡事件でも「皇統外の臣下を排除すること」から「男系限定」への接続は残り、女系でも血統が伝わることは本人が認めています。
細部を大量に並べても、橋がなければ結論には渡れません。三橋どころか、現代の象徴天皇制まで行くには京橋ほど橋が必要です。しかも現在地は、まだ最初の橋を点検しているところです。
*なるほど、京橋(”きょうばし”ではなく、”けいばし”)ですか。なかなか、おもしろい。そうすると、my(サクラちゃん)の”サクラ”も、植物や人の名前ではなくもしかして…(by基礎医)。
【範囲】本レジュメはp.85~187までの途中経過。引用は、会話内で確認できた本文について該当頁を記した。史実そのものの検証や一次史料との照合は、必要な箇所について別途行う。
5 件のコメント
SSKA
2026年9月11日
精緻な書評有り難うございます。
点を幾つも集めて並べても正しい線で一つも繋げないのがこの書(作者)の特徴で、男系論の実体そのものを表しているのも良く分かりました。
前に書いたコメントと同じで、歴史事象と無関係に女性は怖いから近寄るべからずとDV者が偏見による主観を垂れ流したかった向きが強そうです。
アシスタント?相方も、そうよ、そうなのよ(女ってのは)と内心頷いているのなら微笑ましい光景ですが、内容的に当人の対談形式の動画配信をわざわざ書籍化した程度のものを買って読む価値はなさそうです。
サトル
2026年9月11日
そうそう。
私はまだ、フランスに居ます(笑)
サリカ法…どこ行った?
サトル
2026年9月11日
皆様コメントありがとうございます。
(なかなか、番組では上手く伝えられてないので、次回あれば(笑)、頑張ります!)
基本…論理の橋は架かっているか?それは、ちゃんと荷重計算(笑)はキチンとされてるか?
材質の由来?説明はいいから(笑)、渡れるの?適切なの?いらん素材なんじゃね?…と、私なりに読んでます。
さらに、三橋氏の書いてある…論理の橋そのものの点検…をレジュメにしました。なので、私も余計な橋を架設、増設していませぬ。
遠すぎた橋…アンソニー・ホプキンス…もちろんです!
あの映画は、アンソニー・ホプキンス、ショーン・コネリーを観ないといけません。このあたり、笹さんのお話を聞いてみたいですね。
サクラ…ですが、これはCMによくある(※イメージです。)(笑)
まあ、サクラの花言葉にも、
シダレザクラ:「優美」「ごまかし」八重桜:「豊かな教養」「おしとやか」河津桜:「思いを託します」 …とか色々ありますし(笑)
ましてや、効能を保証するものではありません(笑)
気が向いたら…さらに細かいバージョンが14ページ分ありますが、今回はストックで。
最後に言い忘れたことですが。
もし、三橋氏のこの本が「(私の)役に立つかも知れない!買ってみよう!!」と思われる方がいらしたら、レジュメ段階でこんな感じですので、まあ止めはしませんが、ほぼ同じ金額、かかる時間…なら、私は「オデュッセイア」観に行きます。
クリストファー・ノーランは大好きなんで。もちろん作品によっては、「いやぁ…これは、ちょっと…」もあります。
当たり前ですね(笑)
作品毎に評価すべきですから。
mantokun
2026年9月11日
サトルさん、大変お疲れ様です。
> 危険の原因は「女性だから」ではなく、「天皇に宗教的・政治的権威と権力が集中したから」とも読めます。
ほんとにその通りですよね。倉山もそうですが、本人が言いたい結論とそこまでに述べる歴史事象が因果関係として噛み合ってないので、「で、なんで女性・女系天皇はダメなの?」という疑問は解消されません。蘊蓄を垂れ流してるだけでは「根拠」の説明にはならないことがなぜわからないのかと。
養子案なんて、天皇さえ望んでいないのに時の権力者の一存で「直系の内親王を退け、生まれながらの国民を性別と家柄だけを根拠に皇族にしてもよい」と決めてしまった前代未聞のトンデモルールです。完全に憲法違反のこの案がなぜ現代で認められるのか、三橋に限らず男系派は全く説明できていませんね。
京都のS
2026年9月11日
三橋は古代史の細部を調べれば調べるほど反証ばかりが集まってきて途方に暮れたんでしょうね。だから古代史の知識量(ネットで漁っただけ)でネトウヨを欺きながら、「(繋がってなくても)だからダンケー」で誤魔化す戦力を取ったのでしょうね。顧客を騙す商売は自分の足元を崩す詐欺なのですが、ネトウヨは際限なく騙されるから仕方ないですね。
「三橋(京橋)」は読みにくいと思っていましたが、伏線が回収されても「スッキリ感」が無ぇです(笑)。サクラは客を騙すための狂言回しですよね。