「各国・各民族の家族システムの比較から皇位継承を考える」

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人類学者で歴史家のエマニュエル・トッド氏が著した『老人支配国家・日本の危機』(文春新書)を読まれたことはあるでしょうか。

トッド氏の手法は、世界各地に存在する民族の多様な家族システムを比較し、また彼らの歴史上の振る舞いや現在の動きを考え合わせ、世界の政治経済分野における未来予測に役立てるというものです。

これによって氏は、ソ連崩壊やアラブの春、英国のEU離脱、トランプ大統領誕生などを予測し、全て的中させてきました。

トッド氏が語るには、日本の危機はコロナでも経済危機でも中国でもなく直系主義を原因とする少子高齢化だそうです。日本で主流となっている直系主義の家族は、親子間の権威主義(親の言うことに服従) と兄弟間の不平等主義(長男が家を継ぐ代わりに親を扶養する)が原則です。

直系家族では必然的に子育てと介護の負担が長男家族に集中し、好況・不況などの経済的事情も影響すると思われますが、やがて晩婚化・非婚化から少子化が進行します。

の少子高齢化によるシルバー民主主義こそが日本では最大の危機であり、それが最も露骨に現れたのが昨今のコロナ禍であり、また為政者やエリート層の脳が高度成長期やバブル期から1ミリも動かない理由はココにあるのでしょう。

 さて、トッド氏の説によれば家族形態の変化はユーラシア大陸の中央で起こり、それは次第に周辺部に伝播していくそうです。

つまり、米英の絶対的核家族(子供は独立して家を出る・相続は親の意思)が最も原始的で、フランス南部・スペイン・イタリアの平等主義的核家族(子供は独立して家を出る・相続は男女の別なく平等)が次に古く、ドイツ・北欧・韓国・日本の直系家族(長男が家を継いで親と同居)は比較的に新しく、中国・ロシア・中央アジア・北アフリカなどの共同体家族(兄弟の家族も全て親と同居)が最も新しいということです。

面白いことに家族形態が新しくなる程に女性の地位は下がるそうです。

このことは現代のアラブ諸国や中国で女 性の地位が低いことや、女性の地位向上を叫ぶ声が主に米英から挙がる理由とも合致するでしょう。ちなみに、歴史的な新しい動きやダイナミックな変革(名誉革命・産業革命・新自由主義・反グローバリズム…)が常に米英から起こる原因も絶対核家族システムにあるとのことです。

同書の終盤には、磯田道史氏や本郷和人氏といったマスコミにも登場する歴史家との対談も収録されており、そこでは日本に直系主義が定着する鎌倉期よりも前の家族形態に言及しています。元々日本の家族は、若い夫婦が父系・母系のどちらにも所属できる双系システムだったとした上で、

古代の女帝の存在は当時先進的だった中国伝来の父系文化・男性上位文化への反発だと位置づけています。

当時の中国は、家族システムの段階が直系主義だったと思われ、その思想の精髄は儒教に現れています。儒教が伝来してから数百年程かかって日本社会に直系主義が完全に定着したため、明治期の皇室典範には直系(男系)主義が明記されたものと考えられます。

 さらに、トッド氏の家族システム伝播説に従うなら、古代中国の直系主義が伝来する前に日本社会に存在したであろう核家族と直系(男系)家族との過渡期として想定されるシステム、

つまり双系システムに戻っていくことが皇位の安定継承には欠かせないように思われます。

さらに言えば、現代日本の宿痾である少子高齢化(親への服従の結果)や権威主義(お上に服従)、前例踏襲主義(過去に権威付けされた因習を死守)などは直系主義の病弊だと言えますから、

家族システムを双系システムに戻して選択肢を増やし、社会システムにおいてもマインドの変化を促して硬直化を防ぐことが求められるはずなのです。         

(メールより)文責:京都のS

10 件のコメント

    京都のS

    2022年1月22日

     段々ここで言うべきこと(皇室に関わる事物)から離れていくかもしれないという自覚もありつつ基礎医様に返信します。主にケインズに関することです。
     683年(天武天皇12年)、日本初の銅銭・富本銭が発行されました。これは貴金属(金・銀)との兌換を約束しない貨幣です。そして天武の死後、持統天皇は藤原京を完成させました。これはケインズ主義における金融政策(貨幣発行量↑)と財政政策(大規模公共事業)です。為すべき時に為すケインズ主義は日本の伝統だと私は思っています。

    基礎医学研究者

    2022年1月21日

    基礎医学研究者でございます。(私信のようで申し訳ありませんが)トッドの著作をお教えいただき、感謝致します。このような問題が体系的に見えているのが、かつてのジョン・メイナード・ケインズや経済人類学者のカール・ポランニーのようなヨーロッパの経済学者であるのは、何とも興味深いかと。

    京都のS

    2022年1月21日

     かっしー様、ありがとうございます。本書を読んで私は、トッド氏は半端な日本人学者よりも日本と日本人について深く知り、そして愛してくれていると感じました。ケネスルオフの著書を読んだ時も思いましたが、むしろアウトサイダーの方が皇室や日本社会の問題について曇りの無い目で見られるのかもしれませんね。
     ちなみにトッド氏もルオフ氏もリベラル・ナショナリストです。

    かっしー

    2022年1月20日

     『老人支配国家・日本の危機』は1か月くらい前に読みました。家族形態についての議論も面白かったですが、やはり古代の天皇に女帝が多かったことについてが一番面白かった部分だと思いました。
     トッド氏のような外国人(特に親族構造の研究者)から見れば、古代の女帝の出現は、『中国の男系主義への反発』だと映るのは「普通」なのだと思いました。
     ちゃんとした社会学・歴史学に基づいた議論がなされることを切に望みます。

    呪術高専京都校のS

    2022年1月20日

     皆様、コメントありがとうございました。
     以前、施光恒氏の「本当に日本人は流されやすいのか?」を読んだ時、朝日新聞記事の日本人観を引用して、日本人の精神構造が3層になっているようなことを書かれていたと記憶しています。浅い順に、GHQによる解放後の戦後民主主義、勇ましい中世の武士、もっとドロドロした基層の部分という区分だったと思います。これをトッド的家族システムに当てはめると、中世=直系主義、基層=双系システムとなるでしょうか。この基層部分は、Jホラーの「リング」を引用しつつ解説していましたが、左翼の言い分では井戸に閉じ込めておくべき存在らしいです。特級呪物じゃあるまいに(笑)。
     戦後日本の知識人は、中世的直系主義も古代の双系システムも全否定した上で、アメリカ様によって持ち込まれた無規範な核家族だけを賞賛したため、1000年程かけて根付いた直系システムとの齟齬に苦しみ、また同時に古代の双系システムも浮上できずにいる状態だと思われます。こうした二重三重の捻じれが社会制度も皇室制度も硬直させ、そこに所属する個人を圧迫しているように感じます。
     基礎医様、トッド氏の著作なら「問題は英国ではない、EUなのだ」「グローバリズム以後」「パンデミック以後」、共著なら「グローバリズムが世界を滅ぼす」もオススメですよ。

    基礎医学研究者

    2022年1月20日

     大変興味深く読ませていただきました(そして、勉強になりました(m_ _m)。エマニュエル・トッドというと、自分は『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧』をイメージしてしまうのですが、京都のSさまが冒頭で書かれているように、実はソ連の崩壊(小室直樹氏以外にも存在したのですね)から、様様な社会事象を的中させてきたのですね(なるほど、私見ではこの考えは、「まさに保守主義」と言い換えることができるのかと)。さて、自分の中でとても意外だったのは、「核家族」こそが、もっとも原始的な家族形態だったということであります。私、「女性の地位が下がる」という1点だけを除けば日本の家父長制度もそんなに悪い気がしていないのですが、日本が原子形態の「核家族」を受け入れていくのならば、双系社会も受け入れる、という柔軟な姿勢を示すことこそが、トッドのような考えから学ぶということになりましょうか。

    ダダ

    2022年1月20日

    とても勉強になりました_(._.)_
    個人と家族(社会)の相補性。100分de名著の気分です!
    古代の感性と双系社会が、女性の最高神を生み出したわけですよね。結果的にそれがシナ文化への反発となった。
    皇室に限らず市井においても男系・女系がアイデンティティに直結するとは考えにくく、これからの日本に早く双系を根付かせたいですね。

    ただし

    2022年1月20日

     大変、興味深く読ませて頂きました。とても勉強になりました。
     日本にとって、一番良い時代の伝統を復活させたいですね☆

    てるてる

    2022年1月19日

    興味深いお話です。
    双系に戻すことで、皇位継承が安定化するだけでなく、日本社会が抱えている多くの問題が解決する可能性があるということですね。
    ありがとうございました。

    京都のS

    2022年1月19日

     家族システムの発展段階が進むほど愛よりもシステムが優先されるようです。英国王室で起こった様々な事件(チャールズ王太子とダイアナ妃、ヘンリー王子とメーガン妃…)が英国民に受け入れられるのに対し、皇室で起こった事件(小室夫妻)が日本人民に受け入れられないのは直系主義の病弊としての前例踏襲主義(因習を死守)のせいかもしれません。

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