今上陛下のライフワーク「水問題」についての一考察(上)

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 ここに集まっている皆様なら良くご存じのように、今上陛下浩宮殿下の時代から取り組んでこられたのは水問題です。殿下は昭和62年(1987年)3月にネパール・ブータン・インドを歴訪され、その際に水道インフラが整っていないネパールの集落で女性や子供が水場へ往復する光景を目にされたことが「水問題」に取り組む切っ掛けとなったそうです。途上国で水汲みが女性や子供の仕事とされているために就学や就業の機会が失われ、それによって女性の社会進出は遅れることになります。この一件から私は、殿下が途上国に住む民の置かれた状況と共に女性の地位向上にも関心を寄せておられると拝察し、ゆえに殿下が「外交官」として「能力を発揮」していた小和田雅子さんを妃に選ばれたことは、この二つの意味で必然だったのかもしれないと感じました。

 さて、今上陛下がライフワークとしておられる水問題ですが、その解決に向けて最も参考になるだろうと私が考えるのは植物生態学者・宮脇昭氏の研究です。以下で少し詳しく触れたいと思います。

 平成24年(2012年)7月5日、天皇皇后両陛下現・上皇上皇后両陛下)は、植物生態学者の宮脇昭氏による「常緑広葉樹の植樹による海岸防災の森づくり」というタイトルの御進講を受けられました。その内容は、東日本大震災後の三陸海岸にコンクリートではなく長大な土の堤を築き、そこに常緑広葉樹の森を造ることで津波から命を守る「森の長城プロジェクト」の話だったそうです。当初は40分の予定だったものが、両陛下の強いご要望により30分も延長されました。

 宮脇昭氏には『鎮守の森』『3本の植樹から森が生まれる』『森の力』といった多くの著書がありますが、ここに氏の説の一部を紹介します。地球上の陸地には気象条件などに応じて育ちやすい植物が決まっており、そうした自然植生の森に他の生物との関係が影響したり人間の手が加わったりすることで次第に現在の植生へと変化してきました。変化する前の植生を潜在自然植生と呼びますが、潜在自然植生の森(日本では東北南部より南西はタブノキ・シイ・カシなどの常緑広葉樹が主木)は火災・水害・地震から命を守り、そのような森は人間が手を加えなくても食物連鎖が回って永続していきます。しかし、戦後の復興需要に応えて植えられたスギ・ヒノキ による人工造林や、それ以前から里山に植えられてきたナラやブナなどの落葉広葉樹(東北北部より北の自然植生)の雑木林は本来の自然植生とは異なるため、いずれも間伐などの手入れが必要となり、放置すれば荒廃します。また広葉樹は針葉樹よりも根を深く張り、落葉が水を貯めやすい腐葉土となるため、山全体の保水力も高まります。日本に陸水(河川・湖・地下水)が豊富な理由は、国土の70%が森林に覆われ、自然植生に近い自然林に降った雨や雪を地下水として涵養できるからだろうと考えられます。  

 (下)では、いよいよ水問題の考え得る解決法を提案させていただきます。    

(メールより)文責:京都のS

7 件のコメント

    京都のS

    2023年5月20日

     ただし様、ありがとうございます。

    (下)…( https://aiko-sama.com/archives/10264

    ただし

    2022年2月28日

    とても面白かったです。

    京都のS

    2022年2月25日

     urikani様、ありがとうございました。後編で書いたような解決策はいかがでしょうか?

    urikani

    2022年2月23日

    大変勉強になりました。面白く拝読致しました(*^^*)

    鬼殺隊京都支部のS

    2022年2月23日

     ダダ様、基礎医様、ありがとうございます。スサノオは身体中の毛を抜き、それを針葉樹(良い建材)に変えて植えましたが、それ以前の植生は常緑広葉樹の生い茂る照葉樹林でした。花粉症が増えたのは戦後の針葉樹偏重のせいで間違いありません。また自由貿易の価格競争で負けたために林業が衰退し、竈門(炭次郎)少年みたいな炭焼きも居なくなり、若年者の流出と高齢化も手伝って山林は荒廃し、そうして土砂災害が多発する事態に至っています。国策の間違いとグローバル化という鬼コンボのせいです。
     葉を広げて十分に陽光を受ける広葉樹が日本の自然植生なら、そういう自然に逆らってはいけません。自然に逆らうことをすると森の中だろうが試験管の中だろうが鬼が発生します。そうした鬼は、マスクを通さずに森の空気を吸いながら、全集中して日輪刀で斬ってやりましょう。

    基礎医学研究者

    2022年2月23日

    植物生態学のことはよく知らなかったので、勉強になりました(そして、興味深く読ませていただきました(m_ _m)。なるほど、今回の論考を読んで思いましたのは、学問を学ぶのはよいことなのですが、それはあくまでも対象を”理解すること”であって、その意味を勘違いして、人間の浅知恵で人為的に手を加えると、ろくなことにならない、ということであります。これは、どこかコロナウイルスへの今の対応に似ているかもしれませんね(本来備わっている「自然免疫」に委ねるのではなく、人為的に作ったワクチンによって対処しようというような)。
    後半を楽しみにしております。

    *ここにも書いてすみません。2月のゴーセン道場におかれましては、参加いただき、ありがとうございました。お会いできて、光栄でした。自分およびS様の地元の関西「道場」も、また宜しくお願い致します(m_ _m).

    ダダ

    2022年2月23日

    自然植生のお話、大変勉強になりました。
    産業にも繋がるのですから、自然の力を侮ってはいけませんね。

    話題がずれますが、花粉症ってスギ・ヒノキを植えまくった国策のせいでは・・・(。´・ω・)?

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