歴史から自由になった日本人民は皇室を戴けるか?(上)

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 当サイトに『日本人と武士道』(スティーヴン・ナッシュ著、西部邁訳)をテキストにした私の文章を何度か載せていただきましたが、この知日派米国人による日米比較文化論という体で書かれた故西部邁氏の著作には「歴史への忘恩」という章が立てられています。

 その中で西部氏は、「慣習」が無自覚な過去の継承であるのに対し、「伝統」は慣習の中に良識を確認した上での自覚的な継承だと定義しています。また、歴史の不在に脅える「理性の巨人&歴史の小人」としての米国人と歴史の健在を過信する「歴史の巨人&理性の小人」としての日本人とを対比させ、米国人のような「理性の巨人」となるべく「歴史の英知としての伝統」と「伝統の母体となる慣習」とを焼き尽くしてきた戦後日本人に怒りをぶつけています。そして言語活動における理非曲直への感受性は、「良識の源泉としての歴史」を忘却した日本人より、高感度な個人的良心(基礎はキリスト教)を持つ「歴史の小人」たる米国人の方が上だと言います。

 ココで話は大きく変わります。西欧でリベラル(自由主義者)と言えば慣習に逆らい伝統を軽視する人のことで、やがてリベラルは①伝統という秩序の中でのみ自由を許す保守主義者(伝統重視)と②理想のために慣習を変革する自由を称揚する革新主義者(伝統軽視)の2つに分化したそうです。しかし、歴史と伝統の乏しい米国にあって個人的自由を盛大に発揮すると伝統軽視が慣習と化し、その慣習を保守することが保守主義だとされ、そうした倒錯から共和党的リバタリアン(自由主義者)が保守の身分を獲得しました。リバタリアニズムとは個人的自由と経済的自由を最大限に求める絶対自由主義であり、推進すれば弱肉強食の自己責任社会に帰結し、やがて慣習も消滅します。このリバタリアニズムの敗者にも一定の自由を保障するために勝者の自由を社会政策で規制すべきと主張する民主党的リベラル(自由主義者)が革新勢力に分類され、こうして自由も保守も革新も意味が崩壊しました。そして、ネオリベラリズム(新自由主義)に酷似するリバタリアニズム(絶対自由主義)は世界の普遍的価値には成れず、この米国的価値観に基づく思想(アメリカニズム)を世界に無理強いするなら、それはグローバリズム(世界主義)と形容すべきです。また、上記の保革分類法を直輸入したのが戦後日本であり、それゆえ小泉純一郎氏や小沢一郎氏といった新自由主義的な改革主義者が日本では保守だとされました。
 (下)に続く。    

文責:京都のS

(編集者より)『日本人と武士道』について書かれているブログはこちらから

4 件のコメント

    京都のS

    2023年5月2日

    京都のS

    2023年2月3日

     下記の問題に関わることとして、私はライジング386号のQ&Aで以下のような質問をしました。

    Q. 昨年12月の道場で倉持師範が言及されたように故西部邁氏は自著でハイエクを保守思想家として紹介しました。
     しかし同時に西部氏は「ケインズ」の評伝を書いたり、小林先生との共著「本日の雑談」でケインジアン植草一秀氏の手鏡事件に触れて氏をエコノミストの中では良質と評価したり、つまり反緊縮も認めていたと感じます。
     保守の要諦は対立する二つの価値を時所位に応じて平衡させることだと思いますが、経済については、好況時はハイエク、不況時はケインズで平衡させるのが良いと思うのですが、いかがでしょうか?
     現在はコロナ自粛禍ですから自粛脳解除が最優先課題ですが、30年以上も不況が続いた日本では本来ケインズ主義が必要だと思われるのですが、いかがでしょうか?

    A. そうだと思います。

     何の問題についても平衡を取るのって難しいです。世間の思い込みに支配されている場合は特に。男系派世間とか、緊縮派世間とか…。

    京都のS

    2023年1月30日

     これには2021年12月5日のゴー宣道場in東京「日本人大劣化現象」( https://www.gosen-dojo.com/event/30008/ )で語られた論点を含んでいます。「ハイエクは保守思想家だと西部邁氏も言っていた」問題です。これについても、(下)をお待ちください。

    京都のS(サタンのSでも飼い慣らすし)

    2023年1月30日

     本稿では、以前の有識者会議から「女系容認」の結論を国会に提出した小泉純一郎氏が批判される文脈になっていますが、これは(下)で収斂する結論に向けた布石です。ある言論人を徹底批判しながら、ばら撒いた伏線も回収しつつ、結論では皇統問題をガチに論じます。ご安心ください。

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