三島由紀夫の女系公認論(表)

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  『遺魂~三島由紀夫と野村秋介の軌跡』という故鈴木邦男氏の著作をご存じでしょうか。本作は三島由紀夫と「盾の会」、そして「三島のように生きて死にたい」と願った野村秋介や新右翼たちの、鈴木邦男氏のフィルターを通したノンフィクション群像劇といった趣の作品です。同著の第2章「三島は何を考えていたか」の第2節「『女帝』を認めた三島の真意」には驚かされました。1970年(昭和45年)11月25日に決起する直前まで三島は「憲法改正草案」を考え続け、その骨子(三島メモ)を基に「盾の会」の「憲法研究会」で討議させていたそうです。「草案」の天皇条項の第3条は「皇位は世襲であって、その継承は男系子孫に限ることはない」という簡明な一文です。これは三島が女系女子も含めた直系子孫への継承を公認したと言ってよいはずです。

 三島は研究会に討議させた「憲法改正草案」を単行本として出版する計画でしたが、「草案」は決起の日までに完成しなかったようです。三島の死後に残された「憲法研究会」の膨大なテープ起こし原稿は危うく歴史の闇に埋もれるところでしたが、やがて毎日ワンズから『血滾ル三島由紀夫「憲法改正」』(2003年)と『日本改正案・三島由紀夫と盾の会』(2005年)の2冊に分けて出版されました。この2書を出した毎日ワンズは、憲法研究会代表の阿部勉氏から原稿を見せてもらった時に「これは世に出すべきだ」と直感したと話す元毎日新聞記者の松藤竹次郎氏が興した出版社です。今、毎日新聞の報道姿勢が保守系論者よりも尊皇に見えるのは、毎日新聞こそが三島イズムの正統な継承者と言えるからかもしれません。

 憲法研究会の討議では女帝容認に違和感を表明した学生も多かったようですが、代表の阿部は三島の代理のような立場で「歴史に照らせば当然認めるべき」と断言しています。これは、現在と違って浩宮殿下(現・今上陛下)や秋篠宮殿下が皇室に居られた状態で、皇位継承は安泰と見られる時代だったにも拘らず三島が下した結論だという点に特に注目すべきです。盾の会で三島が最も信頼したのは、共に自決した森田必勝の他は本多清氏と持丸博氏ですが、本多は旧姓が倉持であり、持丸は養子入りして松浦姓になりました。つまり三島の身近な例からも、やがて皇室に女子しか居られない時代が必ず来ると予見でき、ゆえに女系容認に至ったのだろうと鈴木は『遺魂』に記しています。   (裏へ続く) 

文責:京都のS

15 件のコメント

    京都のS

    2023年4月21日

    京都のS

    2023年4月15日

     松様、ありがとうございます。
    『子どもは親や世間から与えられえた遠眼鏡を逆さに使って見ております。そして健気にも世間の道徳やしきたりの命ずるままに、世間の人と同じように安楽に暮らそうという望みさえ抱きはじめます。でも、ある日、突然それが起こります。今まで眺めていた遠眼鏡は逆さまで、本当はこんな風に、小さなほうの覗き口に目を当てるのが本当だという、その発見をする大きな転機が』という一文についてですが、江藤淳の「ごっこの世界が終わった時」という論文の読後感に近いものを私は感じてしまいました(少し文意が変わりますが)。それに、どちらかといえば江藤は男系派でしたから…その意味でも違います。
     やはり三島の「果たし得ていない約束-私の中の二十五年」の方が近いですね。そのラストは、「私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら『日本』はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである。」

    2023年4月14日

    京都のS様
    皆様

    S様、ご返信いただきありがとうございました。
    「著者の姿勢を信じて向き合った」というお言葉に、いち本読みとしては特に感銘を受けました。右も左も「真実」が大好きでたまらないこの世相で、言葉遊びに興じている自称保守よりも、信に足り得ると感じます。

    S様に尋ねてばかりの私は卑怯に思えましたので、私自身がどう思うのかを書いておきたいと思います。
    「三島は双系も受容したであろうし、双系の未来を体現しようとしている皇室から忖度しただろう」としか、私には思えません。
    そんなことは無いって?三島がそんなこと思うはずないって?三島「研究」の第一人者の皆様はそう言うって?三島の残した言葉や作品を読んでいて、私はどうしても「男系こそが伝統」という答えが導き出せませんでした。

    『言葉は言葉を呼んで、翼をもってこの部屋の中を飛び廻ったんです。この言霊がどっかにどんなふうに残るか知りませんが、私がその言葉を、言霊をとにかくここに残して私は去っていきます。そして私は諸君の熱情は信じます。これだけは信じます。ほかのものは一切信じないないとしても、これだけは信じるということはわかっていただきたい』
    (三島が東大全共闘との討論会の最後に語った言葉)

    『子どもは親や世間から与えられえた遠眼鏡を逆さに使って見ております。そして健気にも世間の道徳やしきたりの命ずるままに、世間の人と同じように安楽に暮らそうという望みさえ抱きはじめます。でも、ある日、突然それが起こります。今まで眺めていた遠眼鏡は逆さまで、本当はこんな風に、小さなほうの覗き口に目を当てるのが本当だという、その発見をする大きな転機が』
    『そのとき今まで見えなかったものが突然如実に見え、遠い谷間から吹く硫黄の火が見え、森の中で牙をむき出す獣の赤い口が見え、自分の世界は広大で、すべてが備わっていることを知るのです』
    (戯曲「サド侯爵夫人」※私がいちばん好きな三島の作品です)

    こういう「言葉」と、「男系が日本の伝統。昔から続いてたんだ!だから未来永劫守れ」などという「言葉」が、私の中ではどう頑張っても結びつきません。私の「根拠」なんてそれくらいですので、多分男系の皆様に口喧嘩されたら泣きます。最低です。

    (余談)
    私は三島の「言葉」が好きです。耽美派とも違う、レトリックというものをここまで高めて紡ぎ出せる人って、どんな世界が見えているんだろう…だから三島は、「文豪」というより、マイケル・ジョーダンのダンクやマラドーナの5人抜きのような、「アスリート」の見ている世界への憧れの方に似た感じで、私は捉えています。

    長々と、大変失礼致しました。今後は空間を汚さないように自重いたします。

    京都のS

    2023年4月14日

     そうそう、松様。男系派が躍起になって三島・女系容認説を潰そうとする理由は、憲法改正を訴えた上での自決(意図的な死)により三島が右派にとっての神となったからです。「男系絶対右派」である自分たちが担ぐべき神輿(三島)を「ジェンダー平等的・女系容認左派」に取られて堪るか!という心境なのでしょう。「皇統の安定を願うが故に女系公認」という立場が現れることは想定外だったのでしょう。

    京都のS

    2023年4月14日

     三島の実像を知ってほしいと願って『遺魂~三島由紀夫と野村秋介の軌跡』を書いた鈴木邦男氏と、「憲法改正草案」を世に出したいと願って『血滾ル三島由紀夫「憲法改正」』と『日本改正論~三島由紀夫と盾の会』を編集した松藤竹次郎氏の人格を信頼して本論を書きました。(裏)と(奥)も見てやってください。
     補足情報、ありがとうございました。

    2023年4月14日

    京都のS様
    皆様

    こんにちは。本サイト読者のひとりです。
    京都のS様に、ご質問と補足があります。

    三島由紀夫の本件は私も軽く存じていましたが、Wikipediaの「三島由紀夫」記事内、天皇に関する項においてもこの事が触れられています。しかし「これでもか!」と言わんばかりの否定的文調で記されています。記事曰く「女性天皇なんて三島が認めるわけがない」と。Wikipediaにしては異様なくらい念押ししまくっている文章なので不気味ですが、パッと見、あちこちから根拠らしいものを引っ張ってきてはいるようです。ウィキペディアは人目につく場所ではあるので、この辺りは、どのように捉えるべきでしょうか。

    また、補足ですが、三島が決起当日朝に呼び出して「檄文」を託したのは、当時サンデー毎日の編集次長だった徳岡孝夫氏です。ですからサンデー毎日が持つ反骨精神の気風が、それとなく「親元」の毎日新聞にも伝播して、今に至っているのかもしれません。不思議な縁を感じます。

    つらつらと申し訳ございませんでした。皆様のご活動、応援しております。

    京都のS

    2023年4月14日

     サトル様、「骨がある」との評価を嬉しく思います。この先も(裏)から(奥)へと、より「骨」っぽく加速していきます。まず本日11:00に予定された(裏)の掲載をお待ちください。

    京都のS

    2023年4月14日

     れいにゃん様、※ありがとうございます!毎日新聞は統一協会への攻撃も全マスコミの中で最も果敢にやっていますよね。これも三島イズムゆえかと思うのですよ。この辺りも後章(奥)をお待ちください。
     そうそう、毎日新聞出版は「ゴー宣<憲法>道場」の白帯・黒帯や「ザ・議論」を出したことからも分かる通り、きっと毎日グループは対米独立を(心の奥底では)願うリベラル・ナショナリストですよ。それこそが三島イズムの証です。

    サトル

    2023年4月14日

    なかなか「骨がある」読みごたえにございました。

    毎日新聞の関わりは初めて知りました。
    毎日新聞の「DNA」は今も生きてますね。
    (この場合の、DNAは、ダンケーのそれとは違うことを、明記します(笑))

    れいにゃん

    2023年4月14日

    そういう経緯があったんですね。毎日新聞社こそが三島イズムの正統な継承者かもしれないというのは納得です。

    京都のS

    2023年4月13日

     前のコメで「後章(裏)では、決起が『憲法改正草案』完成より後になってしまった理由を考察し、そこから上のような批判を間接的に潰す立論になっています。」と書きましたが、これでは意味が解りませんね。正しくは「決起が『憲法改正草案』完成より『先』になってしまった理由」です。

    京都のS

    2023年4月13日

     『血滾ル三島由紀夫「憲法改正」』や『遺魂』をテキストに使った場合に予想される反論は、「三島が死んだ後も続いた議論の記録だから三島の考えを正確に反映したものとは限らないだろう?」というやつです。「松藤竹次郎氏の創作だろう?」とかいう反論も予想できます。
     しかしながら文中には、「国歌は『海ゆかば』が良いのでは?」「いや、やはり『君が代』だ」という隊員同士の微笑ましい「やり取り」が収録されているので、やはり前掲2書は討議の内容を割と正確にテープ起こししているらしいことが伺い知れます。「毎日新聞の記者(松藤氏)は左翼だから女系容認を書き加えたはず」という陰謀論まで言い出す人は相手にする必要が無いと思われます。元「盾の会」の人に取材したという論者も居そうですが、決起に参加できなかった人の無念さや喪失感に付け込む中で自分らが望む回答に近い言葉を引き出したに過ぎないと思われます。誠に卑劣な遣り口です。
     後章(裏)では、決起が「憲法改正草案」完成より後になってしまった理由を考察し、そこから上のような批判を間接的に潰す立論になっています。

    京都のS

    2023年4月13日

     チコリ様、1st※ありがとうございます!三島に男尊女卑的な考え方はゼロだと思います。基本テキストの『遺魂』でも、三島がゲイ(バイセクシャル)だったであろう根拠を著者(鈴木邦男)が挙げています。

    チコリ

    2023年4月13日

    三島由紀夫氏の本は少しの小説しか読んでなくて思想的な事は全然勉強していません。
    でも、戦後日本を真剣に憂いまさに命懸けでこの国の自主独立を訴えた方だと思います。
    当事者としてではなく安全地帯から氏を揶揄する声や雑音は多々あるようですが、個人的に私はとても尊敬しています。
    三島由紀夫さんには、男尊女卑や男系固執の印象がまるでありません。(私がそういう類の発言や文章をしらないだけかもしれませんが)
    関係ないかもしれませんが、美輪明宏さんと親交が深かったことからも、男女差別的、男尊女卑的なものには興味がなかったんじゃないかなあ、と感じています。
    何にも知らないでコメントしてしまいました、ごめんなさい。

    京都のS

    2023年4月13日

     三島の「憲法改正草案」の天皇条項は以下のようなものです。
    1.天皇は国体である。
    2.天皇は神勅を奉じて祭祀を司る。
    3.皇位は世襲であって、その継承は男系子孫に限ることはない。
    4.天皇の国事に関するすべての行為は、顧問院が輔弼し、内閣がその責任を負う。
    5.顧問院は天皇に直属し、国体を護持する。
    6.顧問院は勅撰議員によって構成される。
    7.天皇は議会、内閣、裁判所を設置する。
    8.天皇は国軍の栄誉の源である。
    9.天皇は統帥権の運用および最高指揮権を顧問院ならびに内閣に委ねる。
    10.天皇は衆議院の指名に基づき内閣総理大臣を任命する。
    11.天皇は内閣の輔弼により最高裁判所長官を任命する。
    12.天皇は顧問院の輔弼により検事総長、教育長官を任命する。
    13.天皇は国会(※一院制)を召集し、衆議院を解散する。

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