姫氏国の女傑を悪女と見る輩の動機とは?

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 Eテレの歴史番組「知恵泉」が日野富子を採り上げていました。日野富子は北条政子や淀君と共に日本史上の三大悪女に数えられていますが、彼女らが悪女とされるのは女だてらに政治に口を出したという男尊女卑的な評価だと思われます。

 日野家は藤原系の中では新興の公家でしたが、室町幕府の足利将軍家代々の正室を輩出して勢力を伸ばしました。8代将軍・義政の正室となった富子は、息子の義尚を9代将軍とするために義政の弟・義視の廃嫡を画策し、それぞれの側に有力大名が付いたために応仁の乱が起こったとされ、それゆえ悪女の評価が定着したようです。しかし近年では、9代が義視で10代は義尚が既定路線だったから将軍家の継嗣問題は乱とは無関係だとされ、真の発端は畠山家の跡目争いであり、それに乗っかった東軍の細川勝元と西軍の山名宗全が互いに後へ引けなくなったわけです。ところで8代・義政は政治に全く関心が無く東山山荘(慈照寺・銀閣)に隠棲しており、成長した9代・義尚が六角氏討伐の陣中で酒浸りになって亡くなると、富子は失意の中で乱の収束に向けて動きました。皇室とのパイプ役だった日野家には陳情が多くカネも集まったため、西軍大将(大内政弘)のメンツを立て(領国安堵・冠位・カネ)つつ国元へ帰らせて乱を収束させました。守銭奴との評価も富子が悪女とされる理由ですが、戦で破壊された御所や寺社の再建および終戦工作など、彼女は集まってくるカネの使い所は心得ていました。乱の当時の天皇も富子の政治手腕を高く評価していたそうです。

 公卿で学者の一条兼良は自著『樵談治要』の中で、「日本は古来、姫氏国といって女が治める国であり、始祖は天照大神神功皇后は中興の女王推古天皇以下、古代には数代の女帝が続いている男女に限らず天下の道理に昏くなければ政治をすること、補佐することに支障はない」と言い切り、日野富子を讃えていました。

 このような女傑に「悪女」の汚名を着せたがるのは男尊女卑が動機と見て間違いないでしょう。徳川の世を脅かす豊臣家の淀君を「悪女」と貶めた江戸初期の人々が、北条政子と日野富子を抱き合わせにして「三大悪女」に仕立てたと思われます。言うまでも無く江戸初期は、朱子学(夫唱婦随&三従=男尊女卑)が官学となった時期です。   文責:京都のS

5 件のコメント

    京都のS

    2024年3月25日

     三大悪女の一角・北条政子を採り上げたブログは以下です。
    ・「女が男を転がす国で何を心配してるんだ?」( https://aiko-sama.com/archives/18752
    ・「偉大な女性たちが培った国柄に還るべし!」( https://aiko-sama.com/archives/21197

    京都のS

    2024年3月24日

     くりんぐ様、※ありがとうございます。義政(隠遁オタク)を始め、義視(担がれ還俗ん)、義尚(戦陣ドランカー)、勝元&宗全(引っ込みつかねぇメンツ馬鹿ども)…確かに禄でもない面子ですわ(笑)。一人で治めた富子はホント偉いですね。

    くりんぐ

    2024年3月24日

    日野富子の周りの男たちの不甲斐なさを責めるのが先でしょうに。

    京都のS

    2024年3月23日

     SSKA様、※ありがとうございます。その通りです。身勝手な男たち(夫・義弟・息子・諸大名…)の尻拭いを一人でやり切った彼女を「悪女」呼ばわりしたのは男尊女卑以外の何物でもないと感じます。

    SSKA

    2024年3月22日

    室松時代を通じてのっけから皇統が分裂、日本の東西に公方が配置される事態、皇統統一の後も武家同士の争いは止まず将軍家の力は波があり安定が保てず、権威や権力が分散・弱体化し過ぎどうにもならないまま後の戦国へ突入する印象です。
    彼女の介入が乱のきっかけでないとなると随分印象は変わりますが、

    夫:文化貢献は高いが政治に無関心、息子:意欲はあるが貴人らしく健康に無頓着
    権威の将軍が脆いと我の強い他の武士達を一切抑えられない
    →間の立場の妻(母)が働かないと示しが付かなくなり、結果として後始末に追われる

    ざっと調べたところ夫も子も義弟も先に亡くなり彼女がその先も影響力を行使し続けた為に悪く言われる様になったのでしょうか。
    しかし特に息子に関しては不摂生ですし、将軍の立場も軽く戦や政争が絶えない中でストレス(と生活の乱れ)も有り男達の寿命が縮んでいる様にも見える中で事態の収拾に励んだ彼女一人のせいとするのは理不尽な気がしました。

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