女性優位の軍事国家は、可能か?~錦の御旗としての “女系天皇”~その2

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【「男女双系」から、「男性優位」へ】

使持節都督倭新羅任那加羅秦韓慕韓六国諸軍事安東大将軍倭国(しじせつととくわしらぎみまなからしんかんぼかんりっこくしょぐんじあんとうだいしょうぐんわこくおう)

・・・まるで「じゅげむじゅげむごごうのすりきれ(以下略)…」みたいな名前ですが、これってどうやら、5世紀(古墳時代)に在位された、第19代 允恭天皇ではないかとの噂も名高い、倭王「済(せい)」に与えられた称号のようです。

もちろん、与えたのはシナの皇帝(南宋)。

・・・ひょっとして当時の豪族達って、天皇様と会話する度にいちいち、「しじせつととくわtfi768vぎみまvvy5tぼかfcvぐんじ7tc大将軍様に上進申し上げます!」とか言わなきゃいかんかったのかな??(※まさに、それは「寿限無」です(笑)by基礎医)

いくら古代でも、まさか途中でセリフ噛んだら死刑とか、そんな無慈悲な事言わんよね!?(笑)

それは置いといて、ハッキリ「軍事」という言葉が入ってる事からも明らかなように、「安東」、つまりシナから見て東方の諸国を軍事力によって鎮撫する国王、という意味で与えられた将軍号です。

冊封体制下の倭国において、南宋から将軍や府官などに任命されるのが男性オンリーだった事は、私の過去ブログでも幾度となく指摘している事ですが、それには勿論、「軍事的指導者だから」という背景もあるようです。

弥生時代も含む冊封以前は、男女どちらも豪族の首長に選ばれるのが普通であった倭社会は以後、男性優位に傾いていく事になります。

古墳時代中期以降の前方後円墳から、男性首長に伴う副葬品である矢じり、甲冑の出土が全体の90%を超える事からも、「軍事的統率者たる男性首長が数において女性首長を圧倒する様相が、(古墳時代)中期にはみられるようになる」

と、義江明子氏は分析しています(義江p33)。

また、第21代雄略天皇と同一人物である事がほぼ確実とされている、「倭の五王」最後の王である「武」は、宋書倭国伝によれば、「昔から我が祖先は、自ら甲冑を身に着けて山を駆け川を渡り、…(中略)… 東方西方北方の国々を平定した」と上進しているそうで、まさに軍事的指導者としての天皇の姿をそこに見る事が出来ます。

以後、群臣達の間から「男帝へのこだわり」が払拭されるには、第33代 推古天皇の即位を待つことになります。

推古のカリスマ性のおかげで、飛鳥~奈良時代を通じて「男女双系」の継承は続くものの、その間にも、後述するように課税と兵役目的の「戸籍」導入の過程で女性の人口把握がおざなりになったり、記紀神話作成時にはシナ向けに「万世一系」アピールで編纂する必要性に迫られたり、ひいては律令を導入したのがきっかけで、平安以降再び、父系社会へと傾倒していきます。

その大本は、冊封体制期に遡る「軍事的な男手需要」と、それに基づく男帝へのこだわりから出発しているようです。

文責 北海道 突撃一番

参考文献

義江明子『女帝の古代王権史』ちくま新書2021年3月10日

4 件のコメント

    京都のS

    2024年6月15日

     三島由紀夫は、天皇と軍の関係については、天皇は軍人に栄誉を与える文化的存在であれば良いと書いていたと記憶しています。だから「皇位継承は男系子孫に限ることは無い」と「憲法改正草案」で結論したわけです。であれば、権威(文化的象徴)と権力(外交・軍事も掌握)を分離したまま、権威者の意向を権力者が汲み取れるようにするオーディエンス制度が欲しいところですね。

    突撃一番

    2024年6月14日

    お二人とも、コメントありがとうございます!

    確かに、政情が不安定であれば尚更、「力強い軍事的指導者」という物語を国民は求めてしまうのかも知れませんね。
    天皇がそのイメージづくりに振り回されるのは日本史の宿命なのか、それとも天皇の権威とは分離する形で、軍事的カリスマ権力者を擁立するのが妥当なのか(それはそれで二重権威的な危うさを感じるけど)、その辺りはまだ答えが出ません。

    あと、1点だけ訂正させていただきますが、冒頭の称号は「使持節(中略)安藤大将軍倭国王」でした。
    「王」が抜けてました。 お詫びして訂正いたします。

    基礎医学研究者

    2024年6月14日

    (編集者からの割り込みコメント)おもしろく、読ませていただきました。個人的には、一番最初の斎王の名前の長さにインパクトがあったので、つい強調してしまいました。で、なるほど。やはり、時代の要請なのでしょうか?国防に関する役割を多く担うのはやはり体力にまさる男性で(生物学的には、たぶん女性の方が強い)、そうするとそれを鼓舞するような物語が必要になってくる!ということなのですかね?次回も期待しています。

    京都のS(サタンのSでも飼い慣らすし)

    2024年6月14日

     大陸が動乱期に入ると半島でも列島でも男王や男帝が求められ、大陸に強国(隋・唐)が誕生して安定すると半島では善徳・真徳、列島では推古・皇極(斉明)・持統・元明・元正・孝謙(称徳)という女王や女帝が現れるわけですね。そして唐が滅んで大陸が不安定化した平安期は再び男帝(with藤原摂関家)時代になったと考えれば合理的ですね。そりゃ道長も「宋人を追い返せ」と為時に命じますわ(笑)。
     清が安定していた江戸期は大陸が太平だったから、明正・後桜町が誕生したとも思えます。その清が列強に蚕食されたら、そりゃ国内も武張ってきて男帝時代になりますよね。中露が元気になれば今後ますます武張ってくるはずですから、そんな男帝時代に女帝を立てるには?持統ばりの女傑か?という興味を引きつつ次回を待ちます。

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