【皇室を蝕む三大病理】その3(終). 「個(国)の喪失」 自国への無理解と無分別な海外追従

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英国・エリザベス女王は今年、即位70周年(プラチナジュビリー)を迎えられました。
先日、同国でその記念式典が盛大に行われ、日本でもその様子がNHK(BS)で生中継されました。

その中継で解説されていたのが君塚直隆・関東学院大学教授。
欧州王室の専門家です。
プラチナジュビリー絡みもあり、最近メディア上で見かけた方も多いのではないでしょうか。

その君塚氏がインタビューに応じた、以下の記事が目に留まりました。

「戦後の生き証人」エリザベス英女王とは 在位70年、世界最長目前(朝日新聞デジタル、令和4(2022)年6月2日)
https://digital.asahi.com/articles/ASQ5Z4479Q5YUHBI01G.html

要点は次の通り。

・エリザベス女王は国際政治に強い影響力を持つ。その源泉は、英国と旧植民地で構成される、加盟54か国に及ぶコモンウェルス
・欧州王室間の連携も、Zoomなども活用して緊密に行っている
・その影響力を活かして、環境問題や人権問題の解決などの慈善福祉事業も積極的に行っている

ここまでは、専門家らしい知見になるほどと感じ入っていたのですが、インタビュアーから「日本の皇室のイメージとは少し違いますね。」と振られてからは雲行きが悪化。

曰く、

・日本の皇族もこうした活動に積極的に参加して、欧州ネットワークとつながりを持ってほしい
・「現在の天皇皇后両陛下には、その持ち味を生かし、世代にあった形で、国際舞台での活躍を期待したい。世界の王族のネットワークの中に加わって、人権や地球環境問題でどんどん発言していく姿勢が求められます。」(ママ引用)
・英王室は、政府が見過ごしがちな弱者救済に努め、国民の信頼を得てきた。「日本も見習った方がいい(ママ引用)

何という不見識で傲慢な物言いか。

皇室は英王室に比べてサボっているから、もっと活動しろと言わんばかりです。

皇室(日本)と英王室(英国)の歴史的背景も区別できずに、欧州王室の価値観で皇室を測っている。

総合知を持たない専門家の本性が炙り出されました。


皇室(日本)と英王室(英国)の違い。

まず、女王の影響力の源泉だというコモンウェルスの構成国は、帝国主義時代に英国が武力で植民地支配した国々です。

元は武力を背景にしてつながったネットワークだということを、この記事では全く触れていません。
(唯一、「植民地」という単語から類推できるかもしれませんが、どれだけの人がそれをできるか。)

これでは、英王室は、慈善活動や平和的で熱心な働きかけによって影響力を獲得したと誤解されかねません。

欧州内での王室ネットワークにしても、欧州でたびたび繰り広げられてきた戦争や覇権争いを抜きにしては語れないでしょう。

中世~江戸末期まで、日本は他国との覇権争いに加わったりはしていません。

戦前戦中の「帝国主義政策」を過剰なまでに批判してきたのは、他ならぬ朝日新聞です。

日本の、全体として極めて平和的な対外姿勢によるどうしようもないネットワーク不足、影響力不足を、どの面下げて批判しているのかといいたくなります。


また、英王室は慈善事業に積極的に参加していると言いますが、そもそも英王室の資産は280億ドル(約3兆2,000億円)といわれています。

対して皇室の資産はほとんど無いに等しい。
実質的な私的財産となる内定費、皇族費は、使用人などの人件費なども含まれるので余裕をもって貯金することはできません。

皇籍離脱された眞子さんの貯金は最大で1億円ほど、
また、上皇陛下が相続した昭和天皇からの遺産も数億円程度と見られています。
「「天皇家はお金持ちだし、秋篠宮家だって財産はあるんだから」眞子さん夫婦は“仕送り”を頼ればいいと思う日本人の勘違い」(文春オンライン、令和4(2022)年6月5日)

皇居や御用邸などは国有資産であり、皇室の財産ではありません。大部分の美術品も同様です。
(当サイトブログ「皇室とお金の話 ⑥天皇家の財産~天皇家は大資産家か?」

英王室の資産とは、桁違いどころではない差があります。

資産が無ければ、動ける範囲に限度があるのも当然です。


天皇陛下が研究されている「水問題」分野で輝かしい業績を収められていること。

1912年、国際赤十字に、当時としては破格の寄付をされて「昭憲皇太后基金」が創設されたこと。

何より皇室は古来より、民を支配する(ウシハク)のでなくシラス存在としてその幸福を祈り、弱者に寄り添ってこられてきたこと。

こうしたこともおそらくはよく理解もせず、欧州の尺度で皇室に注文を付ける態度が残念でなりません。


自国の歴史も国柄も知らず、個(国)としての軸を持たないまま、グローバル・デジタル社会を漂流するだけの現代日本。

それが皇室への理不尽な価値の押し付けにもなるし、国家としての存立を危ぶませる事態にもなります。

皇室の存在意義を見つめ直し、日本人としてのアイデンティティを再起動させて、激動するこれからの時代を生き抜いていかなければなりません。


文責:静岡県 L.K(40代、男性)
※第三弾は予告より1時間遅れでした。お待たせしました(汗)
 お付き合いいただきありがとうございました。


【三大病理】ブログシリーズ・バックナンバー

【皇室を蝕む三大病理】その1. 価値観ゴリ押し「毒親」男系主義
【皇室を蝕む三大病理】その2. モンスターカスタマー?歪んだ「国民主権」意識

【皇室を蝕む三大病理】その3(終). 「個(国)の喪失」 自国への無理解と無分別な海外追従

5 件のコメント

    サトル

    2022年6月20日

    君塚直隆氏は、その著書「物語 イギリスの歴史」(別著者ではあるが、「物語 ウクライナの歴史」「物語 フランス革命」は必読!)は、その専門性を如何なく発揮、また「立憲君主制の現在」においては、「王室」の重要性を説き、「あの」参議院会館に於けるシンポジウムにおいて、「皇室の危機」を表明、「保守が皇室を滅ぼす!」とまで力説していたのだが……。ただ、「立憲君主制の現在」においては、「世界の王族」との比較をし、「その基準軸評価……但し「日本の特殊性、独自性を無視」、比較にはなっていない点が気にはなっていました。そして、「小室さんバッシング」が始まった時、真っ先に「週刊新潮」に寄稿、加担しましたね。驚きでした。

    君塚氏に限らないのですが、どうも日本の知識人は、日本人としての生活、行動形式の「基準」を意識してないか、意図的に回避しているキライがある。

    だから、土壇場で醜態をみせる。

    京都のS

    2022年6月20日

     これは是非とも全日本国民に知っておいてもらいたい事実ですね。英国王室とは世界中をウシハク存在だったということです。今の英王室は、国際的な人気取りばかりでなく、帝国主義時代の贖罪の意味も兼ねて慈善事業に勤しんでいると考えれば強く納得できます。日本の皇室を英王室と一緒にしてくれるなと言いたくなりますが、きっと批判者は日帝時代を持ち出すのでしょうね。全くうざったいです…。
     素晴らしい堂々の完結編でした。お疲れ様でした。

    ダダ

    2022年6月19日

    >帝国主義時代に英国が武力で植民地支配した国々です。
    大英博物館の展示物が、侵略の歴史と言われていることを思い出しました。

    君塚氏、眞子さまバッシングの時に日本国民を非難しました?
    皇族の人権が無視されている事態を放置しつつ、海外王室と比較して皇室を貶める感覚が分かりません。それなら日本国民の態度も責めないとフェアじゃない。
    それが出来ないならバッシング連中とやっていること一緒です。

    L.Kさん、三部どれも力作で読み応えがありました。
    ありがとうございました!!

    殉教@中立派

    2022年6月19日

    ケネス・ルオフ氏「(八木秀次氏の)批判の根本にあるのは、僕が日本の天皇を相対化していることですね。他の国の王室と、日本の天皇を比較して研究する事がおかしいと考えているのでしょう。天皇は日本独自のものだから、世界の中に比べられるものなど無いと。」(天皇論・日米激突/小学館 P234)

    ・・皇室を、他の国と比べる事自体は、別にあっても良いだろう。それはそれで、日本という国の特殊性を、再発見する役にも立つのだから。
     ただ、君塚氏は「日本の皇室にも、独自性と(それに伴う)制約があること」「無い袖は振れない、という現実を調べてもいない」という、明確な欠陥がある。男系派も、明治至上主義で、古代や中世の「伝統の流れ」を勉強しないし・・ウクライナの民のように、強力な外圧でも受けなければ・・・日本人は、歴史の一つさえも、勉強しないのだろうか。そうなったら、国それ自体が無くなっていそうだが。ロシアが日本人に行った所業(の歴史)にせよ、「勉強して浮かび上がった歴史感覚」「目先の情報に惑わされない庶民感覚」の二つがなければ、日本人の未来も無いだろうなあ・・・

    roku

    2022年6月19日

    全くその通りです。英国王室と日本の皇室を比較することなど、全くの無意味です。
    ちなみに、エリザベス女王は世界一のお金持ちではなかったですか?
    様々な国を植民地化しながら大英帝国として栄華をほこった国ですが、私は、どこまでも弱者により沿い世界平和を祈り続ける日本の皇室に大きな誇りを感じています。
    日本のマスコミは英国王室を好んで報道しますが、もっと日本の皇室の方々の活動を大々的に報じてほしいと思っています。あなたたちは、どこの国の人間か!と常々不満を感じていました。

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