トンデモ説が壺に至るバタフライ・エフェクト?

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 「日猶同祖論」とは、アッシリアによってイスラエルの地を追われたユダヤ12支族のうち10支族の辿り着いた先が日本列島だとするトンデモ説です。最初にユダヤ系英国人ノーマン・マクラウドが唱え、次に佐伯好郎・酒井勝軍・小谷部全一郎が唱えました。

 佐伯好郎は『太秦を論ず』を発表(1908)し、朝鮮半島から渡来帰化して丹波~山城に根付いた秦氏が景教(キリスト教ネストル派の漢語名)で、秦領の「太秦」(うずまさ:京都市右京区の地名)はアラム語(ヘブライ語の近縁言語)でイエス・メシアを表すイシュ・マシャが訛ったものだと唱え、太秦にある寺社の記述では、木嶋神社(蚕ノ社)の三柱鳥居はキリスト教の「三位一体」を表し、大酒(大避)神社が大闢(ユダヤ王ダビデ)を祀り、秦氏の建立した広隆寺に隣接する「いさら井」は「イスラエル」が訛ったものだと唱えました。しかし、景教が唐に伝わったのが635年で、秦氏来日(5世紀)より後だったため無視されました。

 酒井勝軍は『猶太民族の大陰謀』(1924)を著して「失われた10支族は日本人」「正統シオニズムは日本回帰運動」と唱え、小谷部全一郎は『日本及日本国民之起源』(1929)を著し、日本語に残るヘブライ語の痕跡を挙げ、ミカド(帝・御門)はガド族(12支族の一つ)のガドが訛ったものだと唱えました。

 さて、明治末期から昭和初期に流行った日ユ同祖論とは何だったのでしょうか。日露戦争(1904~05)の勝利でナショナリズムが盛り上がり、関東大震災(1923)・昭和恐慌(1927~)・満州事変(1931)・515事件(1932)…と政情不安が続く中で縋りついた説が日ユ同祖論だったと思われます。また「(日本は)長い歴史を通じて一系の天皇を戴いて来た」「(世界の盟主は)世界で最も古くかつ尊い家柄でなくてはならない」という「アインシュタインの予言」も同じ頃(1928)に捏造され、この偽予言は戦後の自称保守(≒男系固執派:日本人の男であることが誇りにも便利遣いされてきました。そしてユダヤ陰謀論(優秀なユダヤ人は世界支配を企んでいるはず→ゲットー・ホロコースト)と日ユ同祖論(ユダヤ人が優秀なら日本民族も優秀)はコインの裏表です。さらに「正統シオニズムは日本回帰運動」という酒井説は「文鮮明こそキリストの再臨」という統一教会(韓国発の反天皇カルト)の教義に影響を与えた可能性も無いとは言えません。    

文責:京都のS

9 件のコメント

    京都のS

    2025年6月1日

     本稿の続編が「女傑が率いた日ノ本のレイラインを愛子天皇の未来へ繋ごう!」( https://aiko-sama.com/archives/55908 )です。

    京都のS

    2025年5月31日

     本日の11時に後編を載せていただけるようです。後編は場所を太秦から丹後に移し、あの女傑も登場します。

    京都のS

    2025年5月30日

     22.6事件については「ケインジアン双系派がケインジアン男系派を駆逐する! 12th season」( https://aiko-sama.com/archives/47573 )と「21st season」( https://aiko-sama.com/archives/53746 )をご覧ください。

    京都のS(サタンのSでも飼い慣らすし)

    2025年5月30日

     SSKA様、※ありがとうございます。黒船の砲艦外交によって日本は強姦されたようなものですから、尊厳を取り戻すまでには時間が掛かりました。日露戦争に勝って回復したと思ったら関東大震災に昭和恐慌(+世界恐慌)…です。日露戦争後の日比谷焼き討ち事件で発露された似非ナショナリズムや巻頭大震災後の不安が高じた末に起こった惨劇(朝鮮人虐殺)などは日本人の世間主義が暗黒面を剥き出しにしたような事件でした。そこで縋った対象が「日猶同祖論」とか「アインシュタインの予言」では駄目ですね。誰に権威付けしてもらってるんだ?て感じです。
     大東亜戦争に向かうに当たっても為政者(政党政治家→軍部)は天皇を政治利用しましたが、当時(帝国主義時代)に求められた「大元帥としての天皇」像を戦後も引きずっていたい連中が自称保守ですね。彼らが縋る妄想は「日本は万世男系の天皇を戴いて来た」「世界の盟主は最も古くかつ尊い家柄でなくてはならない」です。嗚呼…。

    SSKA

    2025年5月30日

    日本の開国以来の発展と同時に欧米との外交頻度が高まるにつれて異文化コンプレックスが増大し、悩み抗って戦って来たのが日本の近代史であり、現在は米軍占領中と更に強まった中にいるので全く他人事とは思えません。
    アイデンティティのぐらつきや不安心理に陥る度に自国に自信が持てなくなり異国の神やそれに近い存在に依存したくなる病弊はこの先も永遠に変わらないと感じました。
    男系主義も同じものを引き継いでいて対米従属、複雑化し混迷する国際安全保障情勢、経済のグローバル化等に翻弄され国内は経済の低迷が深刻な中、国際通を気取り強がる自称保守が本音はどうにも出来ないとやけを起こして似非絶対神と化した万世一系に縋ろうと悪足掻きを行っている様にしか見えません。
    こんなバカな姿を参考にするより天皇陛下の各国に対して常に平和と協調を旨にしつつ毅然とした外交姿勢から多くを学び取れば日本人も本来怖気付く必要は全く無くなるのですが、自惚れすぎると尊い方の行動も冷静に見れなくなるのではないでしょうか。
    元々土着では無い絶対神信仰やそれに近似したものを身に付けるのに日本人はやはり民族の性格的に合わないと思います。

    京都のS

    2025年5月30日

     nonamuyet様、※ありがとうございます。戸来村(キリストやキリストの弟の墓が有るとされる村)の記事ですね。あれは酒井勝軍(同祖論者②)の著書に初出しているらしいです。
     『日本人とユダヤ人』(山本七平著)は私も読みましたが、内容は忘れてしまいました。そんな私が覚えている記述は日本人が関東大震災の後に朝鮮人虐殺をやってしまった理由を解読していた件です。『空気の研究』にも繋がる考察だったと記憶しています。

    nonameyet

    2025年5月29日

    イザヤ・ベンダサン氏の説を齧ったこともあって、実は私も日本人とユダヤ人は何らかの繋がりがあるのではないかと思っていたので、興味深い記事でした。
    青森県にあるキリストとイスキリの墓とか・・・『わしズム』にみうらじゅんが書いていたじゃないか〜!

    京都のS

    2025年5月29日

     ちなみに木嶋坐天照御魂神社(蚕ノ社)にある千三角形(△)の三柱鳥居は、右辺中央と左下頂点を結ぶ線の延長上に比叡山と松尾山があり、左辺中央と右下頂点を結んだ線の延長上に愛宕山(夏至の日の入り)と稲荷山(冬至の日の出)があり、上方頂点の延長線上に双ヶ岡(秦氏を葬る古墳群)があります。
     また当地は「元糾の池」と呼ばれ、比叡山方向に伸ばした線の延長上にあるのが下鴨神社の「糺の森」です。「糺す(タダス)」の語源は比叡山から上る朝日が「ただ射す」とのことです。そして賀茂氏と秦氏は近縁の氏族だそうです。なかなか太秦は興味深い土地です。

    京都のS(サタンのSでも飼い慣らすし)

    2025年5月29日

     掲載、ありがとうございました。京都在住者としては捨て置けない「日ユ同祖論」を叩き潰したかったので、ここでやらせていただきました。自称保守が持ち出す「(偽)アインシュタインの予言」も同時に潰せたので経済効率が増しました(笑)。

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