今回は、皇族費を取り上げます。
内廷費=天皇家の私的費用、皇室費=宮家の私的費用という説明をしましたが、この2つの費用の性格は微妙に異なります。
現在、宮家は、秋篠宮家、常陸宮家、三笠宮家、高円宮家の4家があります。
■皇族費の位置づけ
内廷費は「日常の費用その他内廷諸費」、皇族費は「皇族としての品位保持の資に充てる」(皇室経済法)という位置づけです。
皇族費は、宮家皇族の生活費のすべてをカバーする建前にはなっておらず、あくまで「品位保持」のため、生活費を補填するものとして位置づけられています。
言い換えると、宮家の場合は皇族費以外の収入が想定されているのです。
これには歴史的経緯があります。
■苦しかった3宮家
昭和22年(1947)10月、11宮家51人が皇籍から離脱し、秩父宮、高松宮、三笠宮の3宮家が残りました。
宮家は、経費の75%を皇族費として支給され、残りの25%は所有地を貸すとか勤めに出るなど、独自に稼ぐことが求められました。
しかし、現実はなかなか厳しかったようです。
雇っていた運転手が安月給のため辞めてしまい、勤務先の大学まで電車を使っていたとか、外国の大使が玄関まであいさつに来たものの、「プリンセスが住む家と思えない」と引き返したエピソードなど、昭和30年代までの宮家の苦しさを示す逸話は多くあります。
■宮内庁の努力
昭和30~40年台にかけて、宮内庁は金と人の手当てを厚くする努力を続けました。
宮家付きの国家公務員を増員したりして、宮家の人件費負担を減らしました。
さらに昭和43年(1968)宮家皇族の住宅は国が提供する原則を決め、宮家の住宅に関する負担も大幅に減らしました。
皇族費の歴史とは、支給額を増やし内廷費並みの扱いに近づける歩みだったといえます。
現在は、皇族としての活動が中心である宮家皇族の経費の大部分は、皇族費が占めているというのが実態ですが、法律上は「品位保持」の記述が残り、細かい扱いが内廷費とは異なっているのはこのような経緯があったためです。
■皇族費の算定基準
皇族費は、内廷費とは異なり家族構成が算定の基となっています。
年間3050万円定額として、算定基準が決められています。
秋篠宮殿下は皇嗣になられたことで必要になる経費が増えることから、算定額が変わりましたが、それを差し引いて秋篠宮家の年間の皇族費は5795万円です。
皇族費の使途詳細は明らかにされていませんが、「物件費」(生活費)48%という過去の宮内庁の発表から推定すると、秋篠宮家の生活費は年間2782万円になります。
『天皇家の財布』著者の森暢平氏は「庶民と比べれば豊かだが、皇族という身分から生じる経費を考えると、潤沢とまでは言えないのではないか。民間の資産家の中には宮家皇族以上の暮らしをする人は多いはずだ」といっています。
■宮家の生活
天皇家と比べると、宮家の暮らしはぐっと一般人に近いようです。
自分自身の財布で買い物をすることも、飲食をすることもあるそうです。
そういった意味でも、天皇家で育つことと宮家で育つことには違いがあるのではないでしょうか。
■一時金
皇族費には毎年の歳費の他に、一時金があります。
結婚などで皇族の身分を離れる場合は、その皇族が年額で得られる額の10倍を超えない範囲で一時金が支払われます。
前例では、天皇家からの場合は満額の10倍、宮家からの場合は9倍となっています。
また、皇族が初めて独立して生計を持った時は、当主の定額の2倍の一時金が支払われます。
次回は、天皇家の財産について見ていきましょう。
文責 千葉県 まー
【参考文献】
『天皇家の財布』森暢平
宮内庁HP
【バックナンバー】
7 件のコメント
まー
2022年3月20日
>ダダさん
「ちょっと信じられない」というのは私も同じ感覚です。
『天皇家の財布』では「銀座で飲むこともある」という記述もあり、ホンマかいな?というのが正直な感想です。
情報発信については難しいところで一概に宮内庁を責められないと思っています。
皇室が続いていくためには国民が変わることが必須条件だと思っています。
「いままでと変わらない暴飲暴食はしたい、でも痩せたい」というのは無理な話です。
>urikaniさん
私の感覚としては、戦後すぐに全国を行幸する昭和天皇に奏上した感覚と似ています。
「貧しい生活をされると、我々の肩身が狭いのです」
>基礎医学研究者さん
多くの人に、正しい情報を知ってもらい、心の奥に持っている素直な尊皇心を思い出してほしいですね。
基礎医学研究者
2022年3月19日
今回も勉強になりました。個人的な関心としては。。。
>宮家の生活
天皇家と比べると、宮家の暮らしはぐっと一般人に近い・・・(中略)
これは、結構考えさせられました。まーさんも言われておりましたが、もっと「国民」に知らしめたほうが良い、情報かと思います(特に、「皇族」に品位をとか思っている方々には)。
あと自分も今回のブログを読んで、同じ皇族でも「天皇家」で育つのと「宮家」で育つのでは、その意味合いが少し異なるのではないか?と思うようになりました(これは、良い・悪いの問題ではなく、お生まれになられて以来背負われるモノが異なるのでは?、という感覚でございます)。
urikani
2022年3月19日
皇族費の位置付けの経緯に驚き、戦後の3宮家の貧しさに驚きました。
今現在も森暢平さんがおっしゃる通り、皇族という身分からしたら少ないように思います。
国民としては、皇族方には豊かであって欲しいです。
ダダ
2022年3月19日
>宮家の場合は皇族費以外の収入が想定されている。
これは知りませんでした。いまで言うダブルワークですね。
自分の財布で買い物をする等、ちょっと想像できません。電車通勤は更に信じられないです。。
その生活様式から本来なら宮家の方が身近に感じられる気がしますが、そうなっていないのは宮内庁の情報発信が下手だからなのか、国民の妬みが異常だからなのか。すべてを週刊誌報道のせいにするのも違うような。
まー
2022年3月19日
>たこちゃんさん
映像をご覧になったのですね!
正直、私はこの話、半信半疑でした・・・(*^^*)
森暢平氏の『近代皇室の社会史』を読むと明治大正昭和の皇室と国民の空気が感じられます。
現在の方が、むしろ空気がこわばっているように感じます。
>殉教@中立派さん
上の方の貴族院の話は何の補足かちょっと分かりませんでした。
結構面白そうなお話しなので、ブログ投稿してみてはいかがでしょうか。
楽しみにしています。
殉教@中立派
2022年3月18日
(補足)貴族院と皇族方
貴族院は、以下の3グループで構成される。
1.自動選出組
皇族議員、公候爵議員。一定年齢に課される「義務」であり、歳費は0円。政務活動が自腹なので、スポンサー様の顔色を伺う必要も薄かったと思われる。近衛文麿、徳川家達など。
2.候補の自動選出+相互選挙
伯子男爵議員。院内の人数比としては最大。前島密、槇村正直など。
3.貴族以外の人々
勅選議員(学識ある者が対象)、多額納税者議員(麻生太郎の曽祖父、オノ・ヨーコの祖父など)、帝国学士院会員議員、朝鮮・台湾在住者議員など、ユニークな選出理由。
貴族院全体としては、伊藤博文、桂太郎、大熊重信、田中義一ら有名人が揃う。また、昭和天皇論には、戦後の混乱期に直接、政治的判断を下した天皇が描かれている。
・・・しかし、「戦前の皇族は、全員金持ちだ」という俺の偏見が打ち砕かれたなー。他に考えた事は「電車通勤の皇族がいらっしゃったとは・・・レッツイマジン。(海外の王族のように)自転車で颯爽と駆け、洒落た喫茶店で臣民と談笑なさる悠人殿下・・アリだ!!」「悠人殿下の予算が少ない。殿下ガチ推しのYカルトVS宮内庁には、埋めがたい溝がありそう」など。
たこちゃん
2022年3月18日
三笠宮様が、戦後まもなく、教鞭をとっていた大学まで電車通勤を
なさっていた映像見て驚いたことあります。
もともと働いて家計をやりくりすることが前提だったからなのです
ね。
皇族の皆さまを誹謗中傷する週刊誌の記者に、このブログみてほしい
ものです。