機能集団が共同体化する「日本病」を癒すのは誰か?(起)

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 阿部勤也氏の『「世間」とは何か』によれば、世間とは(私的な)人間関係の環と定義され、
世間に貫かれているルールは①長幼の序(年長者を敬え)②贈答や冠婚葬祭における互酬(借りをつくったら必ず返せ)だとされます。
この世間という日本独自のシステムに胚胎する負の側面はコロナ禍を経て露わになった感があります。
世間が日本独自の存在であるなら、日本人論の泰斗である故山本七平が触れていないはずはなく、
また精神分析という神経症患者(個人)を相手とする手法を民族(人間集団)にも応用して比較文化論を展開してきた岸田秀氏の考えも伺うため、
両者の対談本『日本人と「日本病」について』を本稿のテキストとします。

 前掲書は主に日本人と欧米人との比較で進められ、欧米人なら目的合理的な機能集団となるはずの会社組織や軍隊が日本では共同体となり、その日本的共同体は擬制の血縁集団だと山本は喝破しました。
例えば、家名が傷つくことを恐れるように、会社の名に傷がつくことを恐れるため、社員は恥ずかしい真似が出来ないという具合です。
日本人と欧米人との違いは、欧米人(キリスト者)では神との上下契約を人間同士における横の契約に転用し、
それゆえ互いにルールを厳守する機能集団(利害調整体:ゲゼルシャフト)が成立しますが、
絶対神を信仰しない日本人では話し合いによる合意と相互承認が組織のルールを上回る共同体(感情共有体:ゲマインシャフト)になるとされます。
例えば旧日本軍では、人望のある中隊長の下では命を投げうつ働きが出来た小隊でも他の部隊に編入されたら機能不全に陥りました。
また無茶な作戦ばかり立てる無能な将軍であっても機能集団ならぬ共同体では降格や罷免が容易ではありません。
これと同じことが会社組織でも起こったため年功序列や終身雇用が定着し、それは日本的経営と呼ばれました。

 つまり、共同体の成員となったからには年長者を敬わねばならず、後々のために同輩に恩を売っておき、
恩を受けた相手は絶対に裏切らず、そうやって雁字搦めになるのが共同体化した日本的組織であり、
この日本的組織と世間は、その暗部までが酷似しています。
ゆえにネオリベ的な自己責任社会への対策として想定された「共同体の復活」は「世間の暗部の黙認」に繋がるのでは?という矛盾を抱え込みます。

 どうもテーマが複雑すぎたためか、(起)では皇室問題に立ち入ることすら出来ませんでした。(承)に続きます。   

文責:京都のS

7 件のコメント

    京都のS

    2023年1月14日

     そうそう、本論の執筆動機としては、私の以前の記事に対する殉教@中立派さんのコメントが大きいです。特に(承)がその回答になっています。基礎医さんやただしさんのコメントも考える切っ掛けになりました。各々に感謝いたします。

    京都のS

    2023年1月13日

     この4章だての文章は、笹師範が仰った「国民性(という言い訳)に逃げない」という言葉に対する私なりのアンサーでもあります。旧日本軍の例もブッ込みましたが、これは後章で回収します。この「負の国民性」については、今までは「岩戸の奥から射す光が何とかしてくれる」みたいな曖昧な表現しか出来ませんでしたが、やっとマシな回答を導き出せた気がします。
    ※「世間の暗黒面を破る光は岩戸の奥から射す」( https://aiko-sama.com/archives/12174

    (参考文献)
    『日本人と「日本病」について』(山本七平×岸田秀)
    『「世間」とは何か』(阿部勤也)
    『国土が日本人の謎を解く』(大石久和)
    『縄文人に学ぶ』(上田篤)
    『ゴーマニズム宣言SPECIAL民主主義という病い』(小林よしのり)
    『ゴーマニズム宣言SPECIAL新・堕落論』(小林よしのり)

    京都のS

    2023年1月13日

     ダダ様、ありがとうございます。世間は緩い「環」なのですが、全世間を貫く2つのルール(長幼の序&互酬)が、若者も中堅も高齢者(世間の年長者)に逆らえなくさせました。世間ファシズム(空気)が発生する謎も「承」以降で語られると思います。お待ちください。
     世間と共同体の関係については、場所(村etc.)や中心人物(首長etc.)に縛られる共同体よりも、世間の方が広い概念だと私は捉えています。どちらも外側の限界は国内ですが。

    ダダ

    2023年1月12日

    私には難しそうですが、、次回を楽しみにしています。
    コロナ禍を振り返ると、、、共同体が「環」なら高齢者ファーストの序列は生まれなかったはずで、全世代の相互補助であって欲しかったですね。。

    京都のS

    2023年1月12日

     佐々木様、早速の反応ありがとうございます。日本人同士の「話し合い」が他国人との間でも成立すると思ってしまうのは、世界中が同じメンタリティーで生きていると思ってしまう「他者性の無さ」ですね。ここから話が広がるだけ広がり、伏線を回収しながら皇室問題へと収斂していきます。

    京都のS

    2023年1月12日

     「日々是皇室」というタイトルのコーナーなのに、皇室に触れるところまで行けない文が載ってしまい「すいま千円」。
     載せてくださった「スーパー世阿弥マシーン」様、ありがとうございました。

    佐々木

    2023年1月12日

    なかなか面白くて考えされられる内容でした。

    特に注目したのは
    『絶対神を信仰しない日本人では話し合いによる合意と相互承認が組織のルールを上回る共同体(感情共有体:ゲマインシャフト)になるとされます。』
    に出てきた「話し合い」で、戦争反対を訴える人や価値相対主義者がよく使うフレーズですが、これは左翼系の理屈から生まれたと思ってましたが、
    どうも日本の風土から生まれたのではないかと思いました。

    続きを楽しみにしています。

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