皇室とお金の話 ⑦献上と賜与~制約だらけの皇室

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今回は最終回、献上と賜与について取り上げます。
この連載で、予算化された皇室の費用と、皇室の資産について見てきました。

その皇室の資産の授受の話です。
皇室に贈ることを献上(皇室から見れば譲受)、皇室から贈ることを賜与といいます。

天皇家の財産の出入りは厳しく制限されており、年間の金額が決まっています。

献上、賜与ともに制限額を超える分は、国会の議決を経なければ授受ができません。
宮内庁は一件一件の金額をカウントし、制限額を超えないかチェックしていて、実際に献上を断ったケースもあるようです。

■献上、賜与の制限
内廷費の余りの蓄えが天皇家の財産となるというのを「④内廷費」で見てきましたが、日本国憲法では、内廷費の余り以外の要因で天皇家の財産が増えないようにしました。
皇室を国会の統制下におくという戦後すぐの思想が反映されています(献上の制限)。
また、天皇家が自らの財産を使って影響力を行使することもできるだけ抑えようとしました(賜与の制限)。
金銭と物のやり取りによって、天皇家が特定の人物、団体とつながりを深め、公正さを失うことがないようにしたのです。
実際に国会の議決を受けて制限額を超えたケースは数少なく、ご結婚や即位のときに国会議員や最高裁判事、都道府県知事などに限定して献上を受け取られています。

■献上
通常の献上は、天皇家が訪問した先の知事からのものが多くなっています。
慣行として、個々の献上は20万円以内に収めるよう申し合わせているようです。
献上は、高額なものに加えて、宣伝に利用されるものは受けないという方針がありますが、元々は「地場産業の奨励」という目的もあります。
時代が変わるにつれ、その意義は小さくなってきていますが、「皇室献上品」ということで知名度のみならず、生産者のモチベーションが上がることは間違いありません。
毎年の献上ではありませんが、令和の御代替わりのお祝いの献上が「御即位を祝う献上品」として宮内庁HPに掲載されています。
ひとつひとつの献上品に込められた想いが写真とともに載せられています。
https://www.kunaicho.go.jp/odaigawari/kenjyohin.html

■賜与
賜与は恩賜ともいいます。
内廷費には、恩賜金・交際費の枠で2916万円予算化されていますから、そのうち6割超の1800万円が恩賜金となります。

▲内廷費の「物件費」(生活費)内訳

社会福祉、学術、芸術団体向けに事業奨励、学術奨励の理由での賜与や募金としての賜与があります。
公益社団法人発明協会が主催する全国発明表彰の賞として「恩賜発明賞」のように賞名に「恩賜」が入っているものもあります。
また、内容非公開ではありますが、『天皇家の財布』著者の森暢平氏の取材では、神社への幣帛料(奉納する金銭)、都道府県への災害見舞い、「酒肴寮」「祭祀料」(私的な冠婚葬祭費)があるようです。
公を体現する天皇家は、私たち国民の言う「私的」な部分が非常に小さいと言えます。

~連載を通じて~
「皇室とお金の話」として、お金、資産という切り口で皇室を見てきました。
「皇室には特権がある!」とか「皇室はドレイ化している!」などという主張が聞かれることがありますが、その内実がどうなのかもしっかり知った上で、結論を出していただきたいと思います。
私も調べていくうちに「この部分は意外と裁量をお持ちなのだな」とか「こんなにも制約がきついのか」と新しい発見がありました。
本当に理不尽だなと感じる制約もありますが、かといってすべての制約を撤廃することが望ましいこととも思えません。

国民のために懸命にお務めをされている皇室の方々を、一番自由にしてくれる「制約」は何か?

それを大事に思う心を、国民は育てましょう。


文責 千葉県 まー

【参考文献】
『天皇家の財布』森暢平
宮内庁HP

『天皇家の恋愛』も必見です!

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5 件のコメント

    まー

    2022年3月24日

    >殉教@中立派さん
    毎回コメントありがとうございました。
    アブストラクション的な発想が楽しかったです。

    >ダダさん
    丁寧に追っていただきありがとうございました。
    「特権」というについて、高森明勅先生は「特定の職務にある者が,その職務の故に与えられている特別な権利」であって、語それ自体にはいい意味も悪い意味もない、という趣旨のことをおっしゃっていました。
    そういう意味では皇室に「特権」はあると思っています。
    ただそれは、誰もがうらやむような種類のものではない、ということですね。

    >基礎医学研究者さん
    縛る対象ではないかは議論の分かれるところですね。
    簡単な柵があったほうが自由に動けることもあると言うと例が悪いでしょうか・・・?
    文末のメッセージはもちろんあの名著のオマージュです!

    >urikaniさん
    もう少し噛み砕いて書きたかったんですが、私の文章力では無理でした・・・。
    尊皇心あるような顔して近づいてくる怪しい輩にも注意が必要ですね!

    urikani

    2022年3月24日

    連載お疲れ様でしたm(_ _)m
    いや〜難しい(;^ω^)

    制約はある程度は仕方ないことですが、あまりにも余裕が無いのは申し訳なく思います。

    尊皇心を持つ国民が、ありもしない皇室特権で騒ぎ立てる輩から皇室をお守りせねば!

    基礎医学研究者

    2022年3月23日

    大変勉強になりました。一連の連載を通じて思うことは、物事を論じるためには、やはりきちんとした「知識」は必要ということであります。それは、[「皇族」は国民の税金で養われており、それは「皇室」の特権だ!]などというのが、その証左であります(それは、何となく思っているイメージを語っているだけであり、深い考えに根ざしていないだろう、という意味で)。そして、まーさんが示してくれた図式は、まるでアメリカの大統領と議会のような形になっているのはちょっと意外で、そもそも「皇室」は権力として縛る対象ではないのだから、もう少し柔軟にやれないものかというのが、「皇室の財産」に関する全体の感想であります。

    ダダ

    2022年3月22日

    当然なのかもしれませんが、献上と賜与にも制限があるのですね。
    今回も勉強になりました。
    連載を通して、ここが皇室の特権だ!と指摘できる事項が私には分かりませんでした。一般国民や政治家と比較して、皇族に自由や権利が多いとは思えません。

    制約だらけの人生でも幸せを感じてもらえるには、やはり国民の存在が欠かせません。私たちの声を届けていきたいです。
    連載ありがとうございました

    殉教@中立派

    2022年3月22日

    皇室の方々は「あえて制約を受けているが故に、尊敬される」という側面があると思う。(不敬な例だと「恋愛禁止ルールで人気を博したアイドル」に近いかも?)
    注目すべきは、「その予算の使い道が、国民目線にどう映るか?」という事。例えば、離脱なさる女性皇族への「一時金」に反対する連中もいるが、一方、小林先生のように「わしは賠償金だと思ってますよ。(皇族方は)生まれたときから自由を制限され、普通の若者みたいに何度も恋愛を繰り返すこともできないんだから(天皇論・日米激突P203)。」という考えもある。
    小姑根性の畜群に、いちいちカネの細かい行方まで口出しされては皇族方が不憫だ・・・と思う一方、(税金の使途に)まったく透明性が無いのも困る。ただ、皇族方の「政治的良心と気合」に依存したこの制度は、一度見直しの必要があるなと思った。

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