平安そうに見える「光る君へ」の時代にあって「刀伊の入寇」(1019)と同様に武張った事件が「大江山の鬼退治」(1018)でしょう。当時の都では婦女子が貴賤に拘わらず攫われる事件が多発しており、安倍晴明の占いによると、それが大江山(丹波と丹後の国境)を根城とする鬼(酒呑童子)の仕業だと判ったため、源頼光(清和天皇の5世孫)が渡辺綱・坂田公時(金太郎)・臼井貞光・卜部季武ら頼光四天王や藤原保昌などを率いて酒呑童子の一味を退治したとされる事件です。おそらく鬼とは都を荒らす盗賊か、あるいは朝廷や藤原政権に従わない勢力(土蜘蛛・蝦夷…)だろうと推察されています。
ところで、「光る君へ」のオリジナルキャラ直秀(毎熊克哉)のモデルは藤原保輔だとされ、直秀が率いた散楽一座(実は義賊)にも輔保という人物が居ました。また、藤原保輔は源頼光と共に鬼退治に赴いた藤原保昌の実弟であり、同時代の大盗賊・袴垂だとする説もあります。であれば、藤原保輔(下級貴族)=袴垂(盗賊)=酒呑童子(鬼の頭目)と比定するのもアリでしょう。そして大江山征伐の後、大和守だった保昌が続いて丹後守に任命された件は伝説と史実が近似する状況証拠として挙げられましょう。
さて、藤原保昌は彰子(藤原道長の娘・一条帝の中宮)に仕えた歌人の和泉式部に求婚し、彼女が出した難題(紫宸殿南の梅の枝を持ち帰る)を突破して受け入れられ、共に丹後国へ赴きました。また和泉式部は橘道貞の嫡妻だった頃に為尊親王や敦道親王(花山天皇や三条天皇の弟たち)と順番に交際した恋愛巧者であり、紫式部も『日記』の中で歌は上手いけど素行が良くないと批判しました。そんな彼女の最後の相手が藤原保昌だったわけです。
上記の例を見れば、一定程度の身分を保持する女性には主体性があるように見えますが、政に携われるのは親の代から官職を持つ男子だけです。また「光る君へ」劇中の”まひろ”(吉高由里子)は、身分に拘わらず試験の結果次第で登用され得る宋の科挙制度を羨んでいましたが、彼の国の儒教は女子の登用など絶対に許しません。しかし、女子が財産を受け継いで男子が婿入りする古代から中世まで続いた我が国の慣習は、律令と儒学を受け入れても儒教的男系主義だけは突っ撥ねた証拠だと思われます。そうやって先人たちが拒絶した男系主義に今、易々と平伏するのが男系派の鬼どもです。こういう似非ホシュを退治すべきは今です。 (文責:京都のS)
5 件のコメント
京都のS
2024年5月27日
れいにゃん様、『愛子天皇論』の「目隠し鬼」に爆笑しました。表題の「退治てくれよう」は桃太郎侍のセリフ(三つ、醜い浮世の鬼どもを退治てくれよう)からです。現代に生きる男系派の鬼どもは退治てやらねばなりません。それこそ1匹残らず日輪刀で斬ってやらなければなりません。
そうそう、「光る君へ」の終盤には二宮和也の出演が決定しているそうです。終盤と言えば、「刀伊の入寇」(1019)と「大江山の鬼退治」(1018)です。刀伊入寇事件で藤原隆家(太宰権帥:竜星涼)と共に戦う大蔵種材(太宰大監)か、大江山事件で源頼光の一行に随行する藤原保昌がいいなぁと思っています。
京都のS
2024年5月27日
SSKA様、※ありがとうございました。儒教的男系主義の受容は江戸初期(朱子学が官学化した頃)に嫁入り婚と家系の男系継承が浸透し始め、そこから260年が経って脳髄に「男を尊び女を卑しむ」思考が染み付いたからだと思われます。そうする他なかった原因を探れば、源平~南北朝~戦国期と続いてきた武張った空気にあると言えます。女帝を多く輩出した古代は武備を怠っていなかったこと(白村江etc.)を思えば、女傑が上に立つ方が良いのかもしれませんね。
れいにゃん
2024年5月26日
平安京に跋扈した鬼退治の伝説にはモデルとなった下級武士がいた!現代、都どころか皇統を直接攻撃している、令和の男系派国会議員はどんな姿の鬼として語り継がれることか。あ、愛子天皇論にもう描かれていましたね。目隠しされて…
SSKA
2024年5月25日
「刀伊の入寇」は海外の侵略、「鬼退治」は都の治安悪化、何れも国内外の防備を怠った中央政府の不作為で女子供老人等の弱い者が被害に遭う酷い状況、この後に地方の不安から自主防衛し戦慣れした武士達が出現し、何れは朝廷を脅かし実権を握る事から一層の男性優位社会に近付いていると言えます。
更に遥か先の明治の男系規定も本来男帝以外に女帝も認められた柔軟な朝廷のしきたりに強面の士族が介入した結果と見て取れます。
武備を疎かにした朝廷も悪いと思いますが、平安以降は力を持つ者の台頭と共に女性の立場も徐々に蔑ろにされる時代になって行きますね。
京都のS
2024年5月25日
掲載ありがとうございました。「光る君へ」や『源氏物語』を題材にしたものは以下です。
・「『光る君へ』ぁら皇族女子の生き辛さを思う 1st season」( https://aiko-sama.com/archives/35405 )
・「『光る君へ』ぁら皇族女子の生き辛さを思う 2nd season」( https://aiko-sama.com/archives/37751 )
・「『光る君へ』ぁら皇族女子の生き辛さを思う 3rd season」( https://aiko-sama.com/archives/38829 )
・「男の嫉妬が英雄を冷遇するなら、トップは女子で良くないか?」( https://aiko-sama.com/archives/35425 )
・「革命的皇位簒奪への対策を『源氏物語』から学ぶ」( https://aiko-sama.com/archives/36977 )
・「儒教的男尊女卑に利用されてきた血穢概念を葬れ!」( https://aiko-sama.com/archives/37641 )
・「尊皇心0な輩は永遠に呪われろ!」( https://aiko-sama.com/archives/38188 )